→→→第3話
しかし。
「お前はメリーを虐めただろう! そのような女は国母にふさわしくない!」
「ロイド様ぁ」
あら? どちらも眠らない……。流石にロイド殿下に吹き矢を吹くのは王家の『影』としてご法度ですわよね。私はホッとするやら、自らに濡れ衣を着せられてヒヤヒヤするやら忙しい感情を表に出さないように必死でした。
「虐め、でございますか? 私には身に覚えがまったくございませんわ」
「しらじらしい! メリーがお前に近づくたびに転んでいたのを知っているぞ。メリーは自分で転んだわけではないと言っている。お前が取り巻きを使って転ばせたり叩いたりして気を失わせたんだろう!」
「ロイド様ぁ~私、怖かったですぅ~」
「ああ、かわいいメリー、お前をこんな酷い目にあわせる奴は俺が許さないからな」
明らかにメリー様は嘘泣きをしているのに、ロイド殿下は全く気付かないのかヒシと彼女を抱きしめます。私の周りの賓客は殆どが呆気に取られてその様子を眺めるばかり。こんな事を考えたくはありませんが、ロイド殿下がここまで浅はかだったとは……。私は気が遠くなりかけました。
「ちょっと待て。その話はおかしいだろう」
「!! お前は!」
振り向くと隣国の皇子殿下がそこに立っています。
「俺は何度かその様子を見ていたが、このメリーとかいう女は誰も側にいないところで勝手に転んでいたから転ばされたというのは無いぞ。そもそも怖いなら近づかなければいいのに、この女の方から勝手にフローラ嬢に近づこうとしてばかりいた。話に無理な要素が多すぎる」
「うっ!」
「えっ、えっと、でもフローラ様のせいなんですぅ~!」
メリー様は必死に言い張りますが、呆れていた周りの目は更に白くなりロイド殿下とメリー様二人を見ています。どうやら私への冤罪は晴らせそうですわね。
「フローラ嬢、婚約を破棄したのなら、俺の妃になってほしい」
「えっ?」
皇子殿下から突然の求婚に、私は思わず彼の顔を真正面から見てしまいました。甘いマスクにシェイドが言っていた言葉を思い出し、なるほどと内心で思います。私はときめきませんでしたが、素敵とよろめく女子が多いのも頷ける男らしいお顔立ちですわ。
「君ほど美しく慎ましく高貴な女性は滅多にいないだろう。君を貶める様な男よりも、俺の方が君を……」
フッ → プスリ
「あっ?」
皇子殿下が頸を抑えて小さな声を上げます。まさか! シェイドの仕業!?
「……君を、幸せに……」
あら? 眠っていない? いつもならすぐ倒れてしまうのに。
「……するという名目で娶り、ばんばんエロい事をしてばんばん子を産ませるのだ!! そしてその子供をゲディンボーブド公爵家の跡取りに送り込む。この国を乗っ取るきっかけにするためにな!! ワハハハハハ!!」
「!?」
「で、殿下!? 何を急に……!」
皇子殿下が高笑いをしている傍で、彼の侍従が真っ青になって取り繕っています。……つまり、今のは彼の本音という事でしょうか。でもなぜそんな告白を?
戸惑う私の背後から、バターンという音とキャアという小さな悲鳴が聞こえてきます。振り向くと、ひとりの倒れた男性を使用人が助け起こそうとしているところでした。倒れた男性が喋っている
『ワハハハハ!! この会場の飲み物に自白剤を入れてやったぞ! 間違って俺も飲んじゃったみたいだけどな!』
「じ、自白剤!?」
「じゃあ皇子殿下はその影響で!?」
「皆! 飲み物を飲むな! 飲んだ奴は吐け!」
「きゃああ!」
夜会の会場は大混乱です。その混乱の中なら、シェイドは誰にも見咎められずに吹き矢を吹くことができるでしょう。
フッ → プスリ
「あっ?……アハハハハ! フローラよりもメリーの方が胸が大きくてエロかったから妻にしようと思って婚約破棄をしたのだ! 虐めをでっち上げようとメリーに言われてな!」
「ロイド様、何を……キャハハハハ! ブラド第二王子派の侯爵家の命令でロイドに近づいたのよ! 私も上手くいけば王子妃になれるから悪い話じゃなかったしね!!」
フッフッ → プス、プスッ
「ウフフフフ! あの男爵令嬢に殿下を誘惑するよう命令したのは私よ!!」
「ハハハハハ! 俺は妻に隠れて愛人を囲っている!!」
「オホホホホ! 夫に内緒で今月は宝石を3個も買ってしまいましたわ!!」
ロイド殿下とメリー様が自白をした後に、裏で糸を引いていたらしき侯爵夫人が自白。
更に会場の中からも数人、秘密を自白をする方が現れます。多分カムフラージュ用に犠牲になったのね、運が悪いわ。可哀相に……。
会場の飲み物を口にし、かつ知られたくない秘密を抱えた人達はバタバタとその場から逃げ出しました。あとに残ったのはまだ飲み物を飲んでいない人と、秘密を抱えていない品行方正な人達ばかり。
「ハハハハ! ずっと内緒にしていたんだけど俺の秘密を言おう」
その、聞き覚えのある声に顔を上げると細身で金髪の美しい男性がすぐ傍に居ました。彼は紫色の目を細め、美しい笑顔を見せます。彼の容貌と笑顔は遠い記憶のおにい様に似ていますが、その口元はまぎれもなくシェイドのものです。
「フローラ嬢、俺はずっと君を愛していた。俺のものになってくれないか?」
「え?」
「ワハハハハ! お、叔父上ではありませんか! 『影』はどこにいるんですか?」
ロイド殿下の「叔父上」という言葉にハッと思い当たります。年若い……若すぎて、甥であるロイド殿下と兄弟のようだと言われていて、病に臥せがちだからという理由で表舞台に出てこず、顔を知られていなかった四番目の王弟殿下、ジェット殿下!! まさか、この人が!?
「おっと、それ以上口にされるとマズいな。撤退だ」
彼が手をさっとあげると、侍従やメイドなど、『影』の変装と思われる使用人が素早くロイド殿下とメリー様の口をふさいで会場から連れ去ります。
「さ、俺達も」
ジェット王弟殿下は私の肩を優しく抱いて、夜会の会場を後にしました。
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