第2話 ノート写させて…ください

チャイムの音で目が覚めた……わけではなかった。

ぼんやりとした意識の中、俺の耳に届いたのは、聞き慣れた声だった。


「おーい、昌也、起きて! 寝ぼけてると6限遅れるよ!」


前の席から振り返った石崎明日香が、いたずらっぽい笑顔で俺を見下ろしている。ポニーテールが軽く揺れ、ノートを片手に持った彼女の手が俺の机を軽く叩いた。


「ん……あ、もう終わり?」

俺は目をこすりながら体を起こす。教室はすでにざわつき始め、移動教室の準備で生徒たちが立ち上がっていた。


「終わりも何も、昌也、授業中ずっと寝てたじゃん。先生の話、全部夢の中だったでしょ?」

明日香はクスッと笑いながら、ノートをカバンにしまう。その仕草はいつもの彼女らしく、まるで小説の登場人物みたいに生き生きとしている。


「そんなことないぞ……たぶん、半分くらいは聞いてた」

俺はムキになって反論するけど、声に自信がまるでない。

「……だから、ノート写させてください」

情けないお願いを、つい口にしてしまった。


明日香は一瞬目を丸くして、すぐにニヤッと笑う。

「うわ、昌也、めちゃダサいね〜! 半分聞いてたってホントなのかな〜?」

彼女のからかう声に、教室のざわめきがちょっと遠く感じる。


「う、うるさいな! いいだろ、ちょっと寝ちゃっただけじゃん!」

俺は顔を赤くしながら、慌てて教科書を机に突っ込む。


「ふーん、まぁいいけど? 6限、化学だよね。教室、めっちゃ遠いから急がないと遅れちゃうよ。一緒に行く?」

明日香はそう言って、すでに歩き始めている。


「ん、行く行く。置いてくなよ……あと、ノート、ほんと貸してな!」

俺はまだ少し眠気を引きずりながら、彼女の後ろをついて教室を出る。

廊下に出ると、春の柔らかい陽射しが窓から差し込んでいた。明日香のポニーテールが光に揺れ、俺の眠気も、情けなさも、なんだか少し薄れていく。


でも、心のどこかで思う。

このまま、彼女の後ろを歩いて、ふとした瞬間にまた告白して、振られて、次の予定を立てる——そんなループが、俺たちの日常なんだって。

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