第8話 4

「――チェンジ! ブレイブ・シンセサイザー!!」


 迫る<竜咆ドラゴン・ブレス>を前に、獅子の偉容が重厚な金属音を立てて、変形していく!


 それは人型の上半身だった。


 頭も下半身もなく――けれど、勇気を押し込めたとしか思えない黒鉄くろがねに鎧われたその背が、迫りくる<竜咆ドラゴン・ブレス>から俺達を庇い、無骨な両の五指を開いて前方に突き出す。


『――騎属シンセサイザー専用騎!? そうか! <大戦>で行方不明になったと聞いていたけど、ドリームランド二番機に補助動力炉として搭載されていたのねッ!?

 でも、いまさらそんな骨董品を引っ張り出してきたところで!』


「――勇者を……ナメるなあああぁぁぁぁ――――ッ!!」


 強い意思を乗せた咆哮を喚起詞コマンドとするのは、法器搭載型騎体の特徴なのだという。


 レオ先生の叫びを受けて、ブレイブ・シンセサイザーの巨大な両手は物理法則を歪めて飛来した<竜咆ドラゴン・ブレス>を、さらに事象を書き換える事で真っ向から受け止めた。


 ――のみならず。


「ゴアアァァァァァ――――ッ!!」


 レオ先生は両手に押し込めた<竜咆ドラゴン・ブレス>を腕を曲げて胸の前へ。


 胸の獅子貌の顎が開かれ、鋭い牙を丸められた<竜咆ドラゴン・ブレス>に突き立て――呑み込んだ!


『――なに!? なんなの!? 黄の賢者の論文アカデミック・テキストでは、その形態での単独稼働なんてできないはずでしょう!?』


 いよいよヒステリックな声でミレディが叫んだ。


『……まさか……』


 無表情だった女像の貌にも焦燥が見て取れて、その双眸が金の繭に向けられる。


『――そのまさかです! 若が師と仰ぎ、信頼する彼もまた、若が紡いだ絆のひとつ!』


 ナナが発した言葉に、女像に苦渋の色が浮かんだ。


『バカな! いいえ、世界の法則がそれほどまでに恐れる事こそ、この神が秘めた力の証明! ならば私は踏み越えるまで!』


 竜頭獅子胴の異形と化していた<女神>の胴が紫電を纏いながら上下に裂ける。


『……<星砕きスターデストロイヤー>……いよいよ奥の手というワケかい』


 おギン婆が呻いた。


 現代戦闘においては艦隊連携によるバリアリンクで容易に弾ける、いわば大艦巨砲時代の名残り――時代遅れの遺物とも言える兵器だが、この土壇場で持ち出すという事は、恐らくはおギン婆の言う通り、ミレディの奥の手なのだろう。


『――でも、それは悪手です!』


 エイトが叫ぶ。


「……フッ。さあ、坊主、そろそろ大詰め……良い頃合いだ」


 レオ先生が励ますように俺に告げる。


「おまえの本当の力を――見せてみろ、ライル!」


 その言葉は、まるで魔法のように俺の胸に染み渡って。


「――はいっ!!」


 視界が、感覚が――還ってくる。


《――魔道器官ソーサル・リアクター臨界クリティカル!!

 合一器官リンカー・コア喚起レディ!》


 <近衛>が俺の魔道器官ソーサル・リアクターと帝騎の合一器官リンカー・コアを繋いで合一させる。


『――躯体、騎体共に再構築に問題なし!

 複座合一デュアル・チャネルも感度良好!』


 <近衛>に続いて補助動力炉に融合したエイトが騎体状況を告げてきて。


『――さあ、ここが編集点! 動画開始四十分の始まりです!

 みなさん、用意は良いですね!』


 狭い鞍房コクピットの中で、俺は仮面を着けて


 金色の繭が解けていく中――その向こうで。


「――控えぇい! 控えおろう!!」


 <女神>の周囲を飛び回り、襲い来るケーブルを斬り払いながら、カグさんが叫んだ。


 ……ようやく、騎士みたいに宇宙空間でも発声できるようになったみたいだな。


「――あちらにおわす方をどなたと心得る!?」


 スーさんもまた降り注ぐ無数の羽根を撃ち落とし、振り回される女像の両手を掻い潜りながら、いつもの言葉を口にする。


『――親の才能を受け継げなかった、帝国の無能皇子でしょう!? それが、なんでここまで私の邪魔を!!』


 ミレディが苛立ったように叫び――その瞬間、女像の顔にはっきりと驚きが浮かんだ。


『……な、なんなの? その騎体、その魔動ソーサリー・ウェーブ……』


 繭が解けて顕になった帝騎は、その姿を変貌させていた。


『……竜? そうか! 第三世代帝騎は<帰還せし戦乙女リ・アルファ>が持ち帰った技術を盛り込んでいるというのは真実だったのね!?』


 周囲が歪んで見えるほどに強い魔動ソーサリー・ウェーブ


 それを放つ騎体は、寸胴短足の兵騎体型はそのままだったが、その外装はより生物的に変貌していた。


 仮面に黄金のかおが描かれて行く中、俺は左手を胸の前で握り締める。


 ナナがその権能で繋いでくれた、家臣達のローカル・スフィアの脈動を感じる。


《――竜王紋、喚起レディ!》


 騎体の背後に金色の燐光が集まり、紋章が描き出されていく。


『――なに!? なんであれだけあった事象軸が消えていくの!?』


 不意にミレディが怯えたように悲鳴をあげる。


『いいえ、終わらない! 終わらせない!』


 俺は虚空を蹴って<女神>に向かって加速する。


「――おっと、オレを忘れるな。ライル!」


 レオ先生がそう告げて、帝騎の背部に取り付いた。


 拡げられた両の五指が、まるで鋼鉄を削り出した大翼のようにも見える。


 いや、まさしく翼だった。


 撃ち出されたかのように、騎体が一気に短距離光速路ショート・スライダーに突入する。


「――ありがとうございます!」

 

『……詰みだよ』


 おギン婆が短く告げて。


『ここ一番で発射に時間のかかる兵装なんて選ぶ辺りが、所詮は研究職なんですよ!

 ――覚悟なさい、マッドサイエンティスト!』


 エイトが高らかに嘲笑をあげた。


 魔道によって強化された感覚が、短距離光速路ショート・スライダーの中からでも<女神>に肉薄し、<星砕きスターデストロイヤー>発射口へと迫っているのを認識した。


「――この紋章が……」


 光速度まで加速したまま、俺は量子転換炉クォンタムコンバーターで蒼く輝く左拳を振りかぶる。


『――勇者の拳ブレイブ・ナックル接続コネクト!!』


 エイトの声と共に、ブレイブ・シンセサイザーの左拳が帝騎の拳を包み込む。


 その重厚で巨大な拳に、三角竜貌の紋章が描き出され――


「――目に入らねえかあああぁぁぁぁぁ――――ッ!!」


 <星砕きスターデストロイヤー>発射口目掛けて、俺は咆哮と共に突っ込んだ。

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