第4話 始めての戦い
第4話:始めての戦い
焼け焦げた床から煙が立ち上り、
訓練場の空気をさらに重たくする。
だが凛音の視線は、わずかも揺らがなかった。
赤いコートの少年――名も知らぬその男は、
余裕の笑みを浮かべていた。
指先に帯びた雷光は、
彼の能力が高出力型であることを示している。
「悪いな。最初に目ぇつけちまったんだ」
「……そう。物好きね」
凛音はゆっくりと立ち上がった。足元を滑らせ、
距離を取る。
一撃目を避けたことで、既に“警戒すべき相手”
として認識されたのは痛い。
この空間にいる誰もが、実力を試しに来ている。
目立てば、確実に狙われる。
(早く終わらせる。目立たず、速やかに――)
少年がもう一度、雷を撃ち出す。
直線的な攻撃。速いが、軌道が単純。
凛音は、それを右へ跳ぶようにして回避。
その瞬間、
彼女の手が床に落ちていた何かを拾い上げた。
少年は、口を開く…
「っ……それは、」
金属片。誰かの能力の残骸か、
投擲用に用意されていた模擬武器か。
どちらにせよ、凛音はそれを的確に、
少年の足元に投げつけた。
雷撃が金属片に誘導され、爆ぜた。
視界が煙に包まれる。
次の瞬間、凛音は飛び込んでいた。
彼の死角、左側から――
「なっ――」
少年の喉元に、訓練用ナイフが当てられる。
模擬武器ではあるが、
能力者同士の戦闘では十分な抑止力になる。
「……あなたの負け」
「……はは。マジかよ、降参、やられた」
少年は悔しそうに笑い、手を上げた。
教官がそれを見て、制止の笛を鳴らす。
「一名、戦闘不能。アウトとする。加点10点」
凛音は少年を睨み返すこともなく、
背を向けて歩き出した。
視線を感じる。周囲の生徒たちが、
すでに彼女を“要警戒”として認識し始めていた。
(まずい……もう少し目立たず行動したかったのに)
それでも、心の奥では確かな感触があった。
――この場所で、生き残れる。
そして、必ず。
(願いを叶える。そのためなら……何度だって)
凛音は、ゆっくりと深呼吸をした。
まだ始まったばかりだ。これから先、
もっと強大な敵と、過酷な試練が待っている。
だが、それでも――
(私は、負けない)
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