第二話 拷問()とうるさい上司

 --アラームの音で目が覚める。

 ソファで寝たせいか、若干体が痛い。


 ……あー、もう、身体中が動かすたびに変な音を出しやがる。


 昼頃には痛みが治っていると嬉しいが、これはちょっと一日中痛くなるかもしれない。


 さて、流石にまだあいつは起きていないよな?

 あんなフカフカな布団で寝てもう起きれるはずはないと思うが……。


 あれで起きれるやつはいつもどれだけ良いもんを使っているんだって話だしな。


 それに、俺が羽毛布団なんて使った日には朝早くなんて到底起きれない。


 だから今頃あの少女は呑気に寝息をたてながら寝ているに違いないはずだ。


 そう思って俺は起きて真っ先に寝室の方へ向かう……が。


 どうもこの少女に対しての俺の予想はことごとく外れるらしい。




「入るぞ! ……って、なんだ、起きてるじゃねか」


「あ、おはようございます……」




 俺の予想に反して、少女は普通にベッドに座っていた。

 顔色は良く、昨日の俺の拷問が全く効いてる様子はない。


 こんな良い布団で寝過ごさずに起きるのかよ。

 勿体ねえなあ、折角なんだからもっと寝ていってもいいだろうのに。


 逆にこの布団で寝ると午後まで起きれない俺が馬鹿みてぇじゃねえか。


 まあ、それはともかく元気そうなら昨日の続きをするまでだ。


 今日は昨日より張り切って拷問をしてやる。

 こいつには申し訳ないが俺はちゃんとした悪の組織の一員だしな。


 まずは俺の仕事を手伝わせるところからだ。




「まだまだ余裕がありそうだな」


「……何をするんですか」


「そうだなぁ、とりあえず今日はお前に俺の仕事を手伝ってもらうか」


「仕事って、どんなことですか……?」


「気になるだろ? だからまだ言ってやらねえよ。ほら、ついてこい」




 とは言っても、もったいぶった割には本当に簡単な仕事だけどな。

 まだ眠気が残っているはずのこいつにはピッタリなはずだ。


 それじゃ、さっさと外に行くか。




「ここは……? ただの道路じゃないですか」




 家を出たや否や、少女は突っ込みを入れてくる。


 なんだよ、家の前に来てすることなんてそんな何個もねぇだろ。


 今からするのはお前の目を良い感じに覚ますことだっていうのに。




「まあな、今から俺らがするのは街の掃除だからここで合ってるんだよ」


「……え? そ、掃除ですか?」


「そうだ、まあ仕事って言うには大袈裟だったか」




 なんだかんだ言って、俺らはこの周辺を占拠しているようなものだ。


 そんな関係になっている以上、俺は少しだけ感謝を込めて朝は掃除をしている。


 実際問題、姉が庭に変な木を植えていったせいで葉が年中生えては落ちてきてほったらかしにすると大変なんだよ。


 マジで何なんだうちの木は。


 ……そういや、前後輩に毎朝掃除をしていると言ったら変なものを見る目で見られたんだった。

 あれはなかなか悲しかったな。


 おまけに他の同僚にもそんなことをする奴は俺くらいしかいないと言われたし。

 俺ってそんなに変な人間か?


 まあ、今日はそれがからこいつに押し付けるんだけどな。


 俺はコイツを尻目にゆったりといつもは掃除できないところを掃除してやるぜ。




「……あ、あの、私は一人で掃除をしてれば良いんですか?」


「いや、もちろん俺と一緒だ。お前に逃げられたら困るからな」


「分かりました!」


「お、おう」




 ……何故か途中から元気になってやがるんだけど。


 昨日のことといい、やっぱり俺の拷問はコイツに効いてないみたいだ。

 地味に面倒くさいことを押し付けたりするくらいじゃダメなのか?


 ……まあ拷問はそんなにしたいもんでもないからどうでもいいっちゃいいんだが。



「ところで、何で掃除するんですか?」




 ああ、なんだ、使うものか。

 そりゃ箒に決まってんだろ。

 

 箒には個人的に思い入れがあるからな。

 俺はこういう時は積極的に使っていく。


 魔法でも掃除はできるが、それじゃあ楽をすることができてにならない。

 肉体労働は意外と楽しいもんだ。


 まあ、こいつは一般人だから到底魔法なんて使えないだろうけど。




「この箒でやるぞ」


「これは、箒……? それに何も無いところから……」


「なんだ、文句でもあるのか」


「い、いやいや! そんなこと!」


「じゃあ良い、さっさと掃除だ」




 ……こいつは残念な奴と思うことにしよう。

 いちいち構っている場合じゃない。


 俺が箒を何も無いところから取り出したことに驚いていたが、今の世の中じゃ当然だろ?


 魔法少女なんて存在がいるんだ。

 そりゃ俺みたいな悪の組織の下っ端でも魔法くらい使えるよ。


 あ、でも後輩はあいつ魔法使えなかったな。

 俺が丁寧に一から説明してやったのに今日に至るまで使える気配が欠片もねえんだ。


 俺でも習得できるやつだぞ?

 やっぱり日頃の行いってやつはあるんだろう。


 さ、掃除だ掃除。


 この街に対してそれなりの想いがあるのは勿論だが、普通に掃除するのはそれはそれで楽しい。


 あいつには一番ゴミが多いところを……って、どこ行く気なんだ……。




「おい、お前どこまで行くんだ!? そんな遠いところもやれとは言ってないだろ!?」


「え? 掃除をしろって言われたので掃除をしていただけなんですけれど……」


「それとこれは話が別だっての。とりあえずは俺の家周辺だけでいいからな、わかったか?」




 なんて奴だ。

 少し目を離すだけで俺から主導権が渡ってしまう。


 折角だから掃除の手伝いをしてもらおうかと思ってただけなのにもう俺の掃除する範囲も残ってねえよ。


 そもそも、掃除を人に任せるのがそもそもの間違いって話もあるしな、うん。


 きっとそうだ。

 そうでも思わないとやってられない。


 いや、もう俺が箒で掃く葉はもうほとんど残ってねえんだけどな。




「とりあえず……一回家に戻れ、戻ってくれ」


「まだちょっと残っちゃってるんですけれど……良いんですか?」


「ああ、後は俺がやる。冷蔵庫の近くに菓子をいくつかおいてるからそれでも食ってまってろ」


「……ありがとうございます!」




 はぁ、それじゃあ俺は掃除を続けよう。

 どうせ後数分もしないうちに終わりそうだが。


 それにしてもそんなに掃除って早く終わるのか。

 俺じゃこんな一瞬のうちに掃除を進めることなんて出来ねえよ。


 まるで魔法でも使ったかのような速さだな。

 まあ、魔法を使ったとしても俺はこんなに早く終わらせられねぇけど。


 ……っと、電話か。




「もしもし」


『た、大変だ。大変だよ弟くん!』




 そうして、電話に出るや否や、俺の耳に届く爆音。

 もしスピーカーなんてものにしていたら確実に俺の耳は逝っていた。


 電話の相手は、組織の幹部の一人。

 そして、姉の友人の綾乃という人だ。




『落ち着いて聞いてね?』


「……貴方の方がよっぽど落ち着いてないんじゃないかと」


『あ、ごめんごめん……え、えっとそれで本題なんだけど、この周辺を担当している魔法少女が消えたらしいんだ。だから、もしかしたら敵対組織に魔法少女を倒せる人間がいるかもしれないってことを伝えたくて』


「……分かりました」




 普段、この人はどうでもいいことを何度も連絡してくる。

 しかし、今日持ってきた話題は中々のもの。


 俺たち悪の組織は魔法少女の行方を基本的に追っているが、完璧に姿を消すということは中々ない。


 そして、昨日俺が後輩に確認した通り、ここ周辺で俺達の組織が特に何かをしたという情報はなし。


 そうなると、相手がなんらかのアクションを起こしたってわけか。




『それで、その次なんだけど……』


「え、まだあるんですか?」


『ちょっと家に泊めてもらっても……『また逃げようとしてたな?』え、あ、ちょっ』




 そのまま、何か重要なことがあるかのように話してきたが、どうやら二件目はなんでもないことだったみたいだ。


 今の電話口から聞こえてきたのは、うちの組織のボスの声。


 おそらく、今電話をかけてきた綾乃さんはいつも通り仕事から逃げようとした。

 それがたった今見つかったという感じっぽいな。


 どうせまた俺の家に泊まりにくるつもりだったんだろう。

 あればっかりは流石に迷惑だから助かった。




『裕樹、いつも本当に申し訳ない。この馬鹿は今から私が締めておく』


「あ、いや、そこまでしなくても……」


『いや、私があいつに言ったのは戦闘力が高い君に魔法少女のことを伝えろとだけだ。ついでに逃げようとしたあいつが百%悪い。だから気にするな。』




 そうして、慌ただしく電話は切れた。


 ついさっき言ったように、綾乃さんは一応俺らの組織の幹部なのだ。

 このようににサボり癖と脱走癖がある以外は俺らの役に立つ、マジで。


 だから物凄く有能だということは当然今までの付き合いでわかっている。

 それでも、性格が性格なため俺は時々こう思ってしまう。


 本当にこんな人が幹部の悪の組織に所属していて大丈夫なのか、と。




『あ、ごめん! 伝え忘れてたけどなんか魔法少女のトップと件の魔法少女は仲良いらしいよ。ち、ちょっとユカ!? 弟くんに連絡してるだけだから!』




 例えば、こうやって、地味に重要そうな情報を後から付け足してくるところとかが良い例だ。

 それにわざわざ携帯に電話をかけてこなくても連絡が出来るなら最初からそれだけを連絡してほしかった。


 


 ていうか、日本最強の魔法少女って、今も変わってなければあの青というか水色の髪のあいつだよな。


 ……そうか、あいつにも仲が良い奴がいたのか……。

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