悪の組織の下っ端ですが、魔法少女を拾いました。

ひぶうさぎ

第一話 道で少女を拾った日

 魔法少女なんて、クソみたいな奴らだ。

 国が作った法律やらなんやらに縛られて、なぜか命をかけて戦っている。


 ……いや、少し嘘をついた。

 別に、心の底からクソと思うほど大嫌いとは思ったことはなかった。


 けれども俺みたいなに所属している奴とは到底縁のない存在ではある。


 だから、そんな魔法少女達と関わることだなんて俺の人生に何度も来るはずがない。


 そう、思っていたのに……。




「絶対に逃がしません!」


「まさかここまで来て逃げるとか考えてないよね?」


「ずっと、一緒にいて……」




 いつのまにか俺の家には魔法少女達がいて。

 ずっと、俺に重い感情を向けてくることになるのだった。







 ◆◆◆







 きっかけとなったのは、土砂降りの雨が降るなんとも暗い日でのこと。

 その日に、俺は魔法少女を拾うことになった。



 




「先輩、今日は帰ったら何をするんですか?」




 任務からの帰り道で、俺が所属している悪の組織、『シュバルズ』の後輩が声を掛けてくる。


 この日の俺達は下っ端として敵対組織との抗争に駆り出されていた後。

 当然体はヘトヘトで、さっさと休みたい。


 ストレスも溜まっているし、どこかで発散してもいいかもしれない。




「とりあえず寝る。いくらなんでも疲れた」


「まあそうですよねぇ〜、けど俺はもっと暴れたいですよ」


「まだ物足りねぇのか? そんな奴お前くらいだぞ……」




 この後輩は組織中でもかなり暴れん坊で、敵からはもちろん味方からも避けられている節もある。


 今日も敵の傷ついている姿を見て笑っていやがった。

 おかしいよ、お前。


 そのくせ容姿だけはその辺のモデルにも負けない美人なやつで、やってることは正気じゃないのに妖艶に見えるのだからタチが悪い。


 腰まで伸びた髪は俺からしても綺麗で顔も整っているが、残念なことに男だ。


 ついでに、俺はこいつに散々迷惑をかけられている。


 こいつが入ってきたばかりのころに尻拭いをするのはいつも俺で。

 早く違う奴の所に行ってくれと思っている間に何故かバディにされていた。


 正直言って勘弁してほしい。


 こいつとカップルだと勘違いされることほど屈辱的なことはないんだ。

 やめてくれ、マジで。




 と、いつものようにただぶらりと俺たちが道を歩いていると。

 後輩が何かを見つけた。




「先輩、あそこで倒れているの人じゃないですか?」


「人……? ……んなわけ……あるじゃねえか」




 どうやら、彼が見つけたのは人らしい。

 一瞬見間違いなんじゃないかと思ったが、確かにあれは人だ。


 身遠目からじゃ見た目がよく分からねぇけれど、多分ありゃ高校生くらいの少女とかそんくらいだろう。


 近づいてみると、服がボロボロで、何かしらの厄介ごとに巻き込まれたと見られる。


 ただ、ここ周辺で何かあったとは聞いてないぞ?


 となると、敵対組織のやつらが何かをやったということが一番に考えられるが……。

 この辺は俺達の管轄で、あいつらがここで何かをすれば問題になるはず。




「この辺に関して何か言われたか?」


「いや、自分は何も聞いてないっすよ。え、まさかこれうちの組織のやつがやったとかじゃないですよね……?」


「いや、さすがに違うだろ」




 咄嗟に否定の言葉が出る。

 しかし、この可能性もなくはないのだ。


 そう、俺達の組織のうちの誰かが一般人に何かをしでかしたという可能性は。


 俺としては、個人だけで楽しむ、そんな組織に所属する者として意識に欠けたやつはうちの組織にいてほしくない。


 ただ、いくら周辺の治安を維持しているとはいえ、所詮は悪の組織。

 イカれた奴らの集まりなので人を甚振る奴だって普通にいる。


 当然、この後輩だって少し弁える理性があるだけの頭のネジが吹っ飛んでる奴らの仲間なのだ。




「じゃあ、自分が代わりにもらいましょうかね」




 案の定、後輩がこの少女に目をつける。

 この後どうするのかは知らないが、ロクなことじゃあないだろう。


 そのまま、後輩の手が少女に伸びる。


 ーーしかし、その瞬間。


 俺は自分でも信じられないほど低い声を出していた。




「待て」




 ……いつもだったら、そのまま放置している。

 適当に後輩に渡して、少女の運命だなんて全く気にしない。


 だが、目の前の倒れている少女に俺は。

 自分の知る人間の姿を重ねてしまった。

 

 あの時は、何も出来なかった。

 けれど、今ならなんとかなる。


 今の俺なら、この少女を俺がすることが出来る。


 


「……ッ先輩? 珍しいですね、どうするんですか?」




 後輩は俺の声色と表情が余程珍しかったのか、かなり驚いた様子で問いかけてくる。


 それに、俺は。




「決まっているだろ、こいつをして好き勝手するんだよ」




 とびっきりの意地汚い笑みでそう言ってやった。







 そのまま、俺は意識のない少女を担いで前を向く。


 目の前には、不思議そうな顔をした後輩。




「意外ですね、てっきり先輩はこういうの好きじゃないと思ってたんですけど」


「俺だって組織の一員だ、そんないつも真面目ぶってるわけじゃねぇよ」




 そう、後輩の言う通り、俺はあまり組織の構成員がしているようなことは好きじゃない。


 かと言って人を助ける性格でもないが、この少女を見るとどうしても姿がダブる奴がいるからな。


 普通の人間よりちょっとガバガバの罪悪感くらいは悪人だって持ち合わせてるよ。




「そうですか……、じゃあ自分はこの辺で」


「急だな、もうちょっと歩こうぜ」


「いや、いいです」




 すると、後輩は半ば強制的に会話を終わらせて、別方向に向かってしまった。

 まあ、せっかくの獲物が取られて悔しいとかそんなところか。


 こいつは俺が今から責任持って色々してやるからな。


 まずは熱々の熱湯風呂に入ってもらうぞ。

 コイツが起きた時が楽しみだ。


 雨でずぶ濡れの体に熱々のお湯は辛いに決まってる。

 温度差で風邪をひくこと間違いなしだ。


 ……ん、いや、寒いから熱いじゃ風邪はひかねぇか……。







「うぅっ……ここは?」




 俺が家に着いたと同時に、少女は目を覚ます。

 そして、俺の方を見て慌てているような顔をしている。




「あ、あなたは誰ですか……?」


「……通りすがりの一般人だ」


「そ、それは流石に嘘じゃ……」




 こりゃ、予想していた以上の反応だ。

 いや、確かに絵面は酷いしこんくらいの反応にはなるかもしれないと思ってたけどさ。




「い、一体私に何をするんですか……」




 いくらなんでも怖がりすぎだろ。

 俺はただ拾ってやっただけっていうのに。

 いちいち反応がオーバーなやつだ。


 はぁ、それじゃとりあえず最初に決めたことからしていくか。


 そう、思いながら、俺は声をかける。




「そうだな、まずは風呂に入ってこい!」


「……え?」




 しかし、俺の言葉が分からないのか、少女は困惑したような表情を見せる。


 もしかして、こいつは風呂すら知らないのか?

 いや、有り得ないとは思うがまだ聞き取れてない可能性もある。




「もう一度言うぞ、風呂に入ってこい」


「風呂って……あのお風呂のことですか……?」


「それ以外に何があるんだ?」


「ほ、本当に私が入って……「いいから入れ」は、はい!」




 二回目でもよく分からない態度を見せたので、脅して入らせてやった。

 ったく、風呂くらい何も遠慮しないで入ったっていのに。


 あいつは自分の姿がよく分かってないと思うが、結構汚れているからな。

 家の中を歩き回られるのも困るから普通に助かるんだ。


 そしたら、あいつが上がってきたときのために俺が飯を作っておくぞ。


 熱湯に浸からされた後人に作られた飯を食わされるなんて……。


 こんな経験、どうせ一度もしたことがないだろう。

 さあ、一体どんな反応をされるんだ?


 そんじゃ、あいつには俺がついこないだ買ったばかりの野菜を炒めたもんと炊き立ての米。


 俺の分は……この賞味期限切れギリギリの冷凍食品と凍らせてた米ででいいか。

 流石にこれを人に出すわけにはいかねぇし。




 そうこうしているうちに、少女が風呂場から出てくる。

 着替えは適当に姉が置いていった服を渡しておいた。


 地味に際どいものが多かったから、普通に使えるようなものが無さすぎて困った……が。


 渡したのはちゃんと普段着にも使えるようようなものだし、おそらく問題はないはず。




「えっと……色々ありがとうございます……」


「いいや、別に俺なんかに感謝する必要はねぇからな。それより、飯を食え」


「え、ご飯も食べさせてもらって……良いんですか?」




 ん? そりゃ俺が拾ってきたんだから飯は出すもんだろ。


 ほら、簡単な野菜炒めだぞ。

 俺は普通に食えるけれどお前には合わねえだろうな。


 だが、恐る恐ると行った様子で野菜炒めを食べた少女はなかなか表情を変えない。

 もしかして、表情が固まるほどマズかったのか?


 だが、その予想に反して少女は……。




「……美味しい」




 俺が作った飯を美味いと言ったのだ。

 俺の野菜炒めが美味しい……だと!?


 意味が分からない。

 この誰にでも作れる野菜炒めだぞ?


 しかも基本何を作ってもマズくなるような俺の手料理だぞ?


 いや、良く聞けば声が震えている。

 これはマズすぎて泣いているんだな。


 まあな、俺の料理が美味いわけがねぇんだ。

 人に作ることなんてもう何年もしてないし。


 それにしても、マズすぎて泣くほどか……。

 もうちょい料理練習しねぇとダメかもしれねぇ。


 ……それじゃあ、今日はこれくらいにしてやろう。




「食べ終わったらな、いつでも好きなタイミングで直ぐに布団に入ってこい! ……ただ、直ぐはダメだぞ、直ぐ寝るのはあんまり体に良くねぇらしいんだ」


「え、……え?」




 こいつも、多分色々あったんだろう。

 俺の飯を美味いと言うような状態じゃダメだ。


 そんな、道でも意識を失って寝るような少女には俺ですらあまり使わない羽毛布団の刑にしてやる。


 この布団を使ってこいつをずっと寝かせてやるよ。

 きっと午後になってから起きてきて寝過ぎた自分が嫌になるだろう。







「よし、食べ終わったな。じゃあ先にお前を部屋に案内する」


「……え? こ、こんなに良さそうなところで寝て良いんですか……?」


「大丈夫だ、俺は別のところでも寝れるからな」


「あ、ありがとうございます!!」


「寝るまでそこで休んでていいからな。歯磨きなりなんなりがしたくなったら言ってくれ」




 なんだ、飯が食べ終わった途端、元気になるじゃねえか。

 これは明日が楽しみだ。


 そして、俺は少女がいる寝室から出て、今日の寝る場所であるソファの元へ行く。

 ここで寝れるかは若干不安だが、まあなんとかなるだろ。


 はぁ、それしても風呂と言っているのに風呂に入らなかったり、マズい飯を食って美味しいと言い出したり変なやつだ。


 でも、俺の料理の腕前が泣くほどマズイとは思ってもいなかったわ、すまん。

 ……マズ過ぎて泣くとか、初めて聞いたよ……。







◆◆◆










「どうして……こんなに優しくしてくれるんだろう……」






____


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