第4話水を運び、教壇に立つ日々
第四話「水を運び、教壇に立つ日々」
「こんにちは、アルスです。今日の分の水を渡しに来ました」
「おお、アルス君か。いつもありがとうな。このおけに、今日の分の水を入れてくれ」
村人のヨシさんが笑顔でおけを差し出してくる。俺は軽くうなずいて、手を前に出す。
「『ウォーター』」
目の前に現れた大きな水の塊が、おけの中にすいこまれるように流れ込んでいく。水の量を自動で調整して、ちょうど満タンになったところで魔法を止めた。
「ああ、ありがとうアルス君。ほんとに、いつ見てもお前の魔法はすごいなぁ。俺なんてこの石くらいの水しか出せんのに」
ヨシさんは片手に乗るくらいの石を指さしながら、笑ってそう言った。
「ありがとうございます。他の家にも水を届けないといけないので、これで失礼します」
「おお、そうだな。毎日ほんとにありがとな」
そう言われて、俺は手を振って走り出す。
5歳になった今、俺の身体能力は異常だ。前世のトップアスリートを超える速さで村を駆け抜ける。
もともと水くみは父さんか母さんの役目だったけど、俺が魔法で水を出せるようになってからは、毎日家に水をためるのは俺の仕事になった。村には水道なんてないし、井戸はそこそこ離れてるから、水くみは本当に大変な重労働だった。
「いや〜、魔法が使えてマジでよかったわ。これで水くみとはオサラバだな」
魔力操作は今でも毎日欠かさず続けている。魔力は動かせば動かすほど大きくなるし、それに伴って身体能力も上がっていく。結果として、俺一人で近所どころか村中をまわれるようになった。
最初は近所だけだったけど、今では村の全世帯に毎日水を届けるのが日課になっている。
「始めた頃は、朝から夕方までかかってたけど、今じゃ1〜2時間で終わるようになったな」
ある家の前に立つと、おばあさんが戸を開けて待っていた。
「アルスちゃん、悪いけど今日もお願いしていいかい?」
「もちろんです、おばあさん」
『ウォーター』と唱えると、水の玉が出て、自然とバケツに注がれていく。
「ほんとに、ありがたいよ……。私の足じゃ、もう井戸に通うのもやっとでねえ」
「任せてください、これからも毎日届けますから」
そんなやりとりを経て、今日も村人たちに水を届け終えた俺は、広場へ向かった。
「アルスが来た!」
「あっ、ほんとだ!」
「も〜遅いよ!」
広場には6歳から12歳くらいの子どもたちがわいわい集まっている。
「ごめんごめん。じゃあ、みんないるね?今日も魔法の練習をはじめようか!」
「「「は〜〜い!」」」
今、俺は村の子どもたち全員に魔法の授業をしている。
2年前、ミカちゃんに魔法を教えたことがきっかけで、その腕が評判になった。今では、完全に村の“魔法先生”状態だ。
「あっ、そこの子、ちょろちょろしないの!集中しなさい!」
ミカちゃんが注意する声が響く。しっかり者で、教え方も上手い。しかもかわいくて、子どもたちにも大人気だ。
「はい、次の子、こっちに来なさい。魔力を流してあげるから」
今では、ミカちゃんも魔法を教える側になってくれていて、本当に助かっている。俺が教えてるのは主に「魔力操作」と「魔法のイメージ」。内容はミカちゃんに教えたときと同じだ。
魔力が少ない子には、俺やミカちゃんが少し魔力を流してあげて、体内で“温かいもの”を感じさせる。それがわかるようになったら、自分の魔力を動かす練習。そして魔法のイメージを持って実際に発動の練習をする。
最近わかってきたのは、魔力を操作すればするほど魔力量が増えるということだ。魔力量が増えれば、魔法の威力や精度が上がり、身体能力や免疫力まで高まっていく。
だから、魔法が使えるようになった子どもにも、「魔力操作は続けなよ」と言っている。
「よし、じゃあ今日の魔法の時間はここまで。今から座学の時間だよ」
「「え〜〜〜っ」」
「はいはい、文句言わないの。文字クラスと算数クラスに分かれて〜」
「もっと魔法やりたーい!」
「座学なんてつまんないよ!」
「お腹すいた〜」
……まあ、子どもだもんな。しゃーない。
「静かにしなさい!! ほら、さっさとクラスに分かれなさい!」
ミカちゃんの一喝で、全員がびしっと整列する。
「「「はいっ!」」」
……マジですげえ。あんなにうるさかった子たちが一瞬で静かになるとは。俺もそれくらいの威厳がほしい。
「ほら、アルスも早く算数を教えに行きなさい!」
「は、はい!」
……俺には無理だな、うん。
算数クラスは俺、文字クラスはミカちゃんが担当している。文字なんて農家だとあまり使わないけど、買い物や領主の命令書の読み書きには必要だ。
ミカちゃんは2年前から俺と一緒に文字の勉強をしていて、今では大人顔負けの読み書きができる。本当に頼れる相棒だ。
授業が終わった後、俺たちは一緒に帰路についた。
「今日もおつかれさま、ミカちゃん」
「うん。……ねえアルス、ずっとこの村で先生続けるの?」
「えっ? どうしたの、急に」
「だってさ、アルスって、きっと村の外でも通用すると思う。もっとすごい魔法とか、人とか、見てみたくない?」
「……うん、実は最近ちょっと考えてた。俺がもっと強くなれば、この村も、ミカちゃんの未来も、もっと明るくできるんじゃないかって」
「そっか……それなら、私も頑張らないとね」
ミカちゃんがにっこり笑う。
俺はこの村で、確かに何かを変え始めている。だけど、もっと遠くに行けば、もっと多くの人を助けられるかもしれない。そんな未来を、少しずつ考え始めていた――。
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