第155話「シルヴィとノアの語らい」
#第155話「シルヴィとノアの語らい」
リヴェル領とハーベル領の滞在二日目の午後、ヴェルド領の庭ではシルヴィとノアが並んで腰を下ろしていた。
二人はそれぞれ魔法と剣の天才として知られ普段は周囲との距離を置くことが多い。友達も意外と少ない。自分の技を突き詰めるのが大事と考えており下手な人づきあいは無駄と思っている節もある。まあこの二人が特別なだけなのだが。
お互いに話が合う。魔法と剣とは言えやはり頂点に達する人間は通じるものがあるのだ。悩みも似ていることが多くそれだけに二人は気が合う。互いに遠慮がなく、唯一無二の親友とも言えるだろう。
そして――今は更に共通の話題がある。それはルカのことだ。
「シルヴィはずるい。朝、ルカと一緒にランニングしていたって聞いた」
不機嫌そうにノアが頬をふくらませた。
「ごめんごめん。でも朝のランニングは私の日課だからね。ちょうどルカが通りかかったから、つい誘っただけだよ」
「だったら、私も誘ってほしかった」
「でもその時間は寝てたんでしょ?」
「……それはそうだけど明日からはちゃんと起きる」
「わかった。なら誘うね。もちろん寝てたら放置するからね」
「絶対に起きる……つもり」
軽い言い合いのあと、少し沈黙が流れた。
やがてノアが問いかける。
「ルカの様子はどうだった?」
「うーん……やっぱりまだ本調子じゃないだね。どことなく表情が暗く思いつめることも多い。まだ戦争のことが心に残ってるみたいだ。それ以外の時はいつもと同じように笑ってはいるけどね」
ノアは静かにうなずいた。
「やっぱり。私と話した時もそうだった。ルカは敵に対して先制攻撃できなかったことをずっと悔やんでる」
「そうだね。今でも自分のせいで仲間が傷付いたって思ってるみたいだな。ヴェルド領を救った英雄なのにおかしな話だ」
シルヴィは腕を組んだ。
「私なら迷わず先に魔法を撃つ。敵は敵。殲滅するのは当たり前のことだと思うんだがな」
「私もそう。敵に情けをかける必要なんてない。……でも、ルカは違う。敵にも慈悲を向ける」
「ああ、そんなことがあった今でも敵に先制攻撃する自信が持てないらしいな。私には分からない気持ちだけど、本当にやさしい、やさしすぎる。それがルカの良さでもあるとは思うけどね」
「うん。そういうところも好き」
2人はルカのことが真剣に好きだ。それは普段から話し合ってもいるのでお互いに分かってもいる。
そして恋は盲目とも言えるのだが……ルカのやさしさも美徳だと感じている。自分にない部分だけにそれも好ましいと思っているのかもしれない。
そうしてお互いに言葉にすることでその気持ちを更に自覚していた。
「ルカは自分自身で今後どうしたらいいのか分からないみたいだな。先制攻撃できないと駄目だと分かってはいるけど、次の戦いで動ける自信がない。それでずっと悩んでいる」
「慎重なままでも別にいいと思うけど」
「ああ、その考えもあるね。でも慎重すぎると再び先制攻撃を受ける可能性もある。今回は大丈夫だったけど次も大丈夫とは限らない。その甘さが命取りになる可能性はあるから、それでいいとも限らない」
「それもそうか。それは困る」
「私は、急には無理だから少しずつ変わっていけばいいと伝えたよ」
ルカがずっと思い悩んでいることは二人共に分かっている。でも、ルカの気持ちを理解できないこともあってどのようにアドバイスをしていいのか分からなかった。
それが歯がゆい。父や周りの人もルカの気持ちが今一つ分からない。なので周りにもルカをどうはげませばいいのか相談したが、その考えが良いアドバイスとも思えなかった。そうして二人共に同じことで悩んだが回答はでなかった。とりあえずの自分の考えを伝えただけだった。
シルヴィがふと笑みを浮かべた。
「実はね、昨日、そういうところが好きだってルカに言ったんだ」
「奇遇だね。私も言った。“そんなルカが好き”って」
「ほんとかい?」
二人は思わぬ偶然に目を合わせて小さく笑った。ちょっとだけ抜け駆けしていたつもりだったが相手もそうだったからだ。
「で、反応は?」とシルヴィはノアに確認した。やはり結果が気になる。
「“ありがとう、誇らしい”だけ。せっかく勇気をもって言ったのに全然気づいてない。鈍感すぎる。ルカはにぶちん」
「私も同じだよ。『いい友達を持った』って言われたよ。……完全に友達扱い」
「本当に、ルカは私たちの気持ちに気づいてないのかな?」
「たぶんね。私たちの好意も、ただの友情によるものと思ってる。あれはそういう反応だろう」
ノアがため息をついた。
「もっとアタックしたほうがいいかな。きちんと伝えた方がいい?」
「でも“正々堂々と勝負する”って話だったでしょ? 抜け駆けは駄目だと思うな」
「恋に正々堂々なんていらないと思う」
「そう言っても、親同士の約束もあるからね。ルカに選ばれるように努力するしかないさ」
確かに親同士の約束はあることはある。本来はそこまで厳密に考える必要もないだろう。抜け駆けしても全く構わない。でも二人共に貴族の娘でもある。どうしても正々堂々という言葉には弱い。
現実には他の普通の貴族は裏工作をするなど平気で裏切るものだがこの二人にはそういった考えはまだなかった。
ノアは少し照れたように笑った。
「じゃあ、やっぱり明日から朝のランニングに私も参加する」
「そうするといい。でも意外だな」
「何が?」
「ノアって、剣のこと以外興味なさそうだったのに。ルカが関わると普通の女の子みたいだ」
「それはシルヴィも同じ」
「……ああ、そうかもね。私はルカのことになるとちょっとおかしいという自覚は間違いなくある。いつもの自分ではないみたいだ。ルカのことになると気持ちが落ち着かない」
「私もそうかも」
夕暮れの空の下、二人は顔を見合わせて笑った。お互いに話することでルカのことを好きということを更に自覚した。しかし、いくら親友と言っても負けられない戦いでもある。やや複雑な気持ちで会話を続けた。
「一緒に頑張ろう、ノア」
「うん。ルカにちゃんと想いが届くように」
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