第139話「覚悟と殲滅」
#第139話「覚悟と殲滅」
帝国との戦争が始まった。
だがその中で、俺だけが覚悟を決めきれていなかったようだ。最後まで戦争が起きるとは信じられなかった、いや信じたくなかったのかもしれない。
敵のクロスボウやカタパルトを先に魔法で攻撃し破壊すべきか――迷っている間に、逆に攻撃が飛来した。
咄嗟に防御魔法を展開したがすでに遅く、威力を削ぐのが精一杯だった。防御魔法を貫通した矢が味方の盾を砕き、兵が次々と倒れていく。
左右の森からも敵兵が大声を上げて迫ってくる。
だがそんな状況すら頭に入らない。ただ「俺のせいだ」という自責だけが胸を締めつけた。
俺が真っ先に敵の武器を攻撃していれば、こんな被害は出なかったかもしれない。全て俺の決断が遅かったからなんだ。
その瞬間、心のどこかで何かが切れた。
次の瞬間、俺は叫びクロスボウやカタパルトへ片っ端から魔法を叩き込んでいた。
はじけ飛ぶ武器。武器の近くの敵兵が吹き飛ぶのが見える。でも、そんなことはもう構っていられない。先に攻撃をして大事な領民を傷つけたのはお前たちだ。これ以上うちの領民を傷つけるわけにはいかない!
矢継ぎ早に魔法を撃ち込み次々と敵の武器を破壊していくと、敵兵は慌てふためき撤退を始めた。
左右を見ると、配置した魔法使い養成所の仲間も奮戦しており、敵の先頭の兵は次々と吹き飛んでいく。
左右の敵軍も総崩れとなり、退却の動きがはっきり見えた。
それを確認した騎士団が反撃に転じ、降参する敵兵を捕虜にしていく。
倒れている者も、生きていれば迅速に回収されていった。
そうして戦争は、終わった――。
損害は出たが一方的な勝利と言っていいだろう。
でも、そう思った瞬間に全身に寒気が走った。俺の決断が遅く仲間が傷ついた。俺のせいだ。そして俺は自分の魔法で人を殺したかもしれない。
いろいろな想いが交差していく。
その後、俺は少しずつ落ち着きを取り戻していった。そして騎士団のところに帰ると盛大に迎えてくれた。
「よくやったな、ルカ!お前のおかげだ」
ガイル兄が俺の髪をくしゃくしゃとかき回す。
「いや、騎士団のみんなのおかげだよ」
まだ心ここにあらずだったが、返事だけはと思って返しておいた。そんな俺を見てガイル兄が心配そうにしているのが申し訳ない。
「さすがルカ様!」
「ありがとう。でもみんなの勝利だよ」
「最初の防御魔法も凄かったです。あれで威力が落ち被害が最小限にすみました」
「いや、突破されたから駄目だよ。俺のせいでたくさんの人を傷つけた。ごめん」
魔法で味方を守り、更には敵を殲滅したと知った騎士団から賞賛の声が上がる。
だが、俺の心はあまり晴れなかった。
もっと早く覚悟を決めていれば良かったのに――その悔いだけが、重く残った。そして俺は人を殺す側にもなってしまった。
覚悟が決まったようで決まっていない。守る覚悟も倒す覚悟もできていないのだ。いまだに中途半端な気持ちのまま。そうして戦争が終わった後も何が正しいのか分からない。本当に俺は駄目だ。
その夜は軽く祝勝会があった。敵の捕虜もいるので軽めだけどね。一応、俺も笑顔を作った。
でもぎこちなかったのだろう。バルド団長に呼び止められた。
「大丈夫か、ルカ坊」
「うん、まあ、ちょっと疲れたかな」
「愚痴をこぼしてもいいんだぞ。弱音を吐いてもいい」
「ごめん、バルド団長、俺が迷ったせいで多くの兵士が傷付いたんだ。俺のせいなんだ」
「何を言っているんだ。ルカ坊、迷うのは仕方がないんだ。でもそれを自覚すればいい。自分の弱さを知ることは大切だ。完璧な人間なんてどこにもいないんだからな。そしてルカ坊は間違いなくヴェルド領を救った英雄だ。それだけは忘れないでくれ」
その後、俺はバルド団長に引きずるように連れていかれた。そこには父さん、母さん、そして家族のみんなもいる。
父さんは「よくやった」と俺の頭を撫でてくれた。
母さんも「ありがとう、ルカ」と抱き着いてきた。
他の家族も集まってきて感謝を述べ抱き着いてきた。
「ルカ様、ありがとうございます!」と団員が集まってきた。
そして父さんが「ルカ、まだ迷いがあるかもしれない。でもお前は間違いなくヴェルド領を救ったんだ。みんな感謝している。それだけは分かって欲しい」と言ってきた。
そうだな。俺が落ち込んでいたらみんなが心配する。そして俺は落ち込んでばかりではいられない。前を向かないと駄目だ。もっと強くならないと。俺はなんとか顔を上げ、何とか笑顔を作った。
その後、父さんは家族や騎士団のメンバーみんなの前で声を上げた。
「今回はルカの魔法が中心となって帝国を撃退した。みんなも頑張ってくれた。本当に感謝する。みんなのおかげだ。みんな誇って欲しい!
ただ、ルカが魔法で撃退したことは皆の心にとどめて欲しい。その理由はルカを守るためだと思ってくれ。今回はルカが凄腕の魔法使いであるということが知られなかったからこそ帝国は雑な攻撃を仕掛けてきた。ルカの魔法はいろいろな意味で知られない方がいいんだ」
「だから今回の撃退は表向きは騎士団メンバーと魔法使い養成所のメンバーの功績にする。そのつもりでいて欲しい。領民にもそう伝えて欲しい」
「「分かりました」」と騎士団のメンバーは答えてくれた。やや納得していない人もいるようだがそれは仕方がない。
そうだった。俺がそれなりに強力な魔法を使えることはまだ秘密なんだよな。それはありがたいことだけどいつまで秘密にできるのか。さすがにそろそろ厳しいだろうな。
そして今回は俺がみんなを魔法で守ったのは事実だろうけど……やっぱり俺はまだまだみんなに守られていると思う。
そして俺はその夜、久しぶりに母さんに呼び止められて一緒に寝ることに。
母さんと一緒に布団に入ると、ほっとして涙がこぼれた。そして涙が止まらなくなった。
俺はその夜、なかなか寝付けず母さんの胸の中で泣き続けた。
そんな俺に母さんは何も言わず、ずっと頭を撫でてくれていた。やっぱり母さんには頭が上がらないな。知らぬうちに俺は眠りについていた。
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