第138話「迫る帝国軍と決戦の朝」
#第138話「迫る帝国軍と決戦の朝」
(ルカ視点、ヴェルド領側です)
帝国軍進軍の報がヴェルド領に届いたのは、夕日が山並みに沈む頃だった。俺は大きく困惑した。
「本当に……戦争になるの? 何かの間違いでは?」
胸の奥が冷たく締めつけられた。戦争の可能性は聞いていたのだけど、本当に現実となるとは思わなかった。
前世でも戦争の経験はなかった。だから、どうしても信じられなかったのだ。どこか違う世界の話だと思っていたのかもしれない。
でもこれは現実なんだ。そして戦争となると覚悟を決めなければいけないだろう。魔法を人に向けて放つ必要がある。人の命を奪うかもしれないが――その覚悟を迫られる日が、今来たのだ。
報告によれば、帝国軍は1000を超える兵と、クロスボウやカタパルトなどの強力な遠距離兵器を備えているという。
対するヴェルド領は、騎士団300、自警団を合わせてもせいぜい500。数は圧倒的に不利だった。これといった遠距離武器もないので攻撃が来たら魔法で応戦する必要がある。
不利だが戦うしかない。父さん、母さん、リリア姉を含めた家族、そして騎士団のみんなが懸命に守ってきた大事なヴェルド領の領民を俺も守らないといけない。
領主の父さんはただちにリヴェル領へ援軍要請を送ったとのことだ。でも向こうに連絡が入るのは明日だろう。いくら早くてもうちに援軍が到着するのは二日後。
明日には帝国軍が来るかもしれない。そうなると最低でも一日は自力で持ちこたえなければならない。
遠征しているリリア姉にも連絡を送ったが、遠征先に連絡が届くのにも三、四日はかかるだろう。リリア姉が戻ってくるのも早くて1週間はかかると見た方がいいだろう。
王都への連絡も試みたが、伝令が届くだけでこちらも最低でも三日はかかるだろう。援軍が来るにはさらに数日、やはり最低でも1週間以上はかかる計算になる。
結局のところ、頼れるのは自分たちヴェルド領にいるメンバーだけと考えた方がいい。
そのため俺は魔法使い養成所の仲間たちを集め、事態を伝えた。
俺よりも幼い者も混じるが、全員が「戦う」と目を輝かせて答えてくれた。親への連絡も済ませたが親たちからも「子らを戦いに出してほしい」との決意が返ってきた。
その覚悟が、かえって胸に重く響く。子供まで戦争に出して本当にいいのだろうか。でも負けたら全てが終わりになるかもしれない。そんな悠長なことは言ってられないのかもしれない。
俺だけがまだ考えが甘い。
そして夜になった。国境付近に帝国軍が陣を敷いたとの報が入る。
夜襲を考えもしたが兵数では不利。敵国にいる相手兵を刺激すれば地の不利があり即座に押し潰される恐れもある。また、いくら国境付近にいるとしても先制攻撃して大義名分を与えるのも良くない。
とりあえずは罠を仕掛け迎撃の準備に専念した。魔物対策の罠だが多少は役に立つと思いたい。
そして翌日の朝――。
森の向こうから、帝国軍がじわじわと進軍してくるのが見えた。やはり戦争を仕掛けるつもりだったようだ。更に気分が重くなるのを感じる。最悪だ。
左右の森にも敵が潜んでいるとの報があった。そこで俺は魔法使い養成所の仲間たちをそれぞれ左右に5人ずつ配し、騎士団からの合図があれば魔法で迎撃するよう指示をした。左右に配置する騎士団の長にもそう伝えた。
俺1人が中央、そして左右に5人ずつの魔法使い養成所のメンバー。少ない人数だけど魔法で魔物を討伐することも可能なレベルの11人だ。年少者も含むが実戦に耐えうる、かなりの戦力になると思う。
それでもまだ俺だけは覚悟を決め切れていなかった。どこかで戦争を回避できるのではないかと期待していた。
でもそんな思いを裏切るように、敵陣から野太い声が響いた。
「我らはバルストリア帝国軍! セレスティア王国より幾度も攻撃を受けた。話し合いは無用、これより反撃を開始する!」
根拠なき言いがかりに、バルド団長が怒声を返す。
「何を言うか! こちらからは一切攻撃していない。帝国軍は即刻撤退せよ!」
しかし敵は止まらない。じわじわと進んでくる。
そして巨大なクロスボウとカタパルトがこちらに狙いを定めているのが見えた。
あの武器に向けて攻撃すべきか――迷いが俺の胸を刺した。あの兵器を魔法で破壊すればいい。でもそれをすると近くの人間にも被害が出る。
だがその俺の逡巡は命取りだった。
「よし――初弾、百射、放て!」という敵の声と共に武器が稼働したのだ。
轟音とともに、巨大な矢と岩が唸りをあげて飛来した。俺は即席の防御魔法を全体に張ったが、すべてを防ぐには薄すぎた。
矢が、石が、防御魔法を超え、盾を貫き兵士たちを倒していく。赤い飛沫が視界を染めた。多少は威力を落としただろうが防御魔法を敵の武器が超えてきたのだ。
その後は左右の森からも敵兵が現れ、咆哮を上げて突進してきた。
俺が迷ったせいで攻撃を受けた。そして兵士が倒れた。俺のせいだ。迷ったせいだ。俺は何をやっているのだ。
その瞬間、何かが胸の奥で切れる音がした。
恐怖でも迷いでもない――純粋な敵に対する怒り。
その怒りが、身体の奥から燃え上がった。そして俺は魔法を敵軍に向けて放った。
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