11 よかった……。
動きがあった、とは言ったもののそれは俺的に動きがあったと思った、と言ったほうが正確かもしれない。
なにかというと、妹と穂希さんがノギさんと一緒に探索をしていたのだ。ノギさんは2人に声をかけて、「一緒に探索しよう」と言ってくれたらしい。なんとありがたいことだろう。
妹はノギさんの高校の後輩であるということを言い、ノギさんはそっかあーとしみじみ納得していた。
いつまでも多窓して見ていてはいけない。とりあえずブラウザ版ライヴダンジョンを閉じる。ボヤイターに戻るとダンジョン関係の公式さんがいろいろと配信者のポストをリポストしているのが目に入った。
赤い閃光が探索に入ったゲートが雷門ゲートだ、とか、奏音さんの装備の内容だとかそういうことがぼつぼつ流れてきた。
『チキンやってる場合じゃねーのよ、大事な仲間がこんなことになってるんだから』
アカミチさんがそうポストしていた。
きっとアカミチさんなりに、奏音さんは大切な仲間だったのだろう。周りの人間には関係がよくないと思われていても、本人たちにしかわからない友情のようなものがあったのかもしれない。
流石にここまでの決意表明をされてしまうと、アカミチさんのアンチも何も言えないようだった。
◇◇◇◇
エナドリのお世話になり2日が経った。オフショットはこの事態なのでお休みしている。さてどうしようか……と思っていたら隣の安全管理課から歓声が上がった。
「お、めっかったなー」
みー先輩がのどかに言う。スマホがなにやら通知してくるのでなんだなんだと見てみると、ニュースアプリから「ダンジョンで行方不明の探索者発見」というのが速報で入っていた。
よかった……。
その後流れてきたニュースによると奏音さんは打撲と擦り傷があって栄養失調気味だったが、少し休めばなんとかなりそう、とのことだった。
ライヴダンジョン社とダンジョン庁の記者会見が行われ、今後安全対策をしっかり行い、2度とダンジョンでこういうことを起こさないようにする、と3人お詫びでこの件は落着した。
奏音さんは配信者を引退すると発表した。アカミチさんやほかのクランメンバーと話し合った結果らしい。アカミチさんは相当残念がっているようだったが、まあ事件の発端がアカミチさんだ、引き留めることはできなかったようだった。
◇◇◇◇
発見から何日か経ったその日もみんなでカロリー軒に行き、エビそばをズルズルやっていると、アカミチさんと奏音さんが入ってきた。
「アカミチくん、奏音ちゃん、おひさー」
みー先輩が明るく言う。アカミチさんは「お久しぶりっす」と明るく答え、奏音さんも「お久しぶりです」と答えた。
「珍しいね、2人してカロリー軒」
「私はもう来る機会もないと思うので、最後にお腹いっぱい食べておこうと思って」
「で、1人だと寂しいから来てほしいと言われたわけっす」
そうだったのか。
「引退したあとはどうするの?」
「そうですね……ダンジョン関係のコメンテーターにでもなろうかと。いろいろお誘いもいただいていて、どれを受けようか悩んでいるところで」
「そっかあー。でもそれならこれからもうちの会社来る機会あるんじゃないの?」
「それもそうか。でもいいじゃないですか、エビそば」
「おれが奢るから腹いっぱい食っとけ」
アカミチさんがにっと笑った。同時にどんどん! とエビそば大盛りが2人の前に置かれた。
「……大将、アカミチ、奏音さん……写真いいですか……公式ボヤイターにUPしたいので……」
「えっ!?」
えがそー先輩がカメラを構えた。大将はオーケーを出したようなので、アカミチさんと奏音さんがエビそば大盛りを前にピースサインを作っているところをカシャカシャとカメラに納めた。
◇◇◇◇
「みなさんご存知カロリー軒のエビそばを前にピース #地上の配信者」
そういうキャプションで、アカミチさんと奏音さんの写真を公式ボヤイターに放流する。
すごい勢いでバズり始めたそのポストであるが、アンチが食いついてくることはとりあえずのところなかった。
むしろ、2人の和解を喜ぶリプライがどんどん繋がっていき、なんというか「ハッピーエンド」というように見えた。
激しくバズってしまったので、「なおこちらがカロリー軒のエビそば名物・底から出てくる三枚肉チャーシューです」と、麺を軽くどかして撮ったゴツいチャーシューの画像をおまじないしておく。
『カロリー軒行ってみたい!』
『底から出てくる三枚肉とかもう大食いバトルの最終局面のやつじゃん』
『テレビ老人会やめい』
なごやかなやり取りにほっと安堵する。そうしているうちにもう定時だ。みー先輩は最近見つけたヤバい美味しさの日本酒が飲めるバーに行くそうで、えがそー先輩も「……ポンシュ……おいしそう……」とゾンビのようについていった。
駅でいつもの電車に乗り、移動時間の間スマホでニュースを見ていると、どうやら奏音さんを発見したのはノギさんと穂希さんと妹であるらしかった。
へえ、あいつがねえ。
家に帰ってくるとぽてとがかわいい顔をして俺を出迎えてくれた。なにやら妹と穂希さんが興奮気味のおしゃべりをしていた。嫌な予感がする。妹は俺に気付くなり、おかえりと言うのをすっ飛ばしてスマホの画面を見せてきた。(つづく)
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