第2話 絵本
―――「ねぇ、そっちのほう見つかった?」
「えー全然ないよー。」
「こっちもないや。」
二人に絵本探しの進捗を聞いてみるがダメそうだ。
「一応本棚は何回か見たし、引き出しも片っ端から開けてみたけど全然ない。」
「お菓子の棚とか見たけど全然水色の絵本見つからなかった!」
「まさかだけど盗み食いしてないでしょうね。」
「げ、なぜバレた。」
「ワワちゃんクッキー好きだし、半分冗談で言ったのに本当に食べてたとは随分食いしん坊だね?」
「まあまあ落ち着いて...ねぇタタちゃん。絵本があるところに何か心当たりない?大体の場所が分かるだけでもやみくもに探すよりかは早く見つかると思うんだよね。」
「うーん...取り上げられた後、お父さんはリビングに向かった気がする。私はその時部屋の鍵を閉められちゃって、鍵まで身長が届かなかったから開けられなくてこの目で見たわけじゃないけど。」
「リビングってなると、いま私たちがいるとこだよね。どこかに絵本を隠せそうなところがあるかな...?」
「あの時計は?」
突然ワワちゃんが時計を指差す。
「「え?」」
「あの時計の動きちょっと変じゃん。しかも模様も何か凄そうだし。」
「流石に無理があるんじゃない?第一、時計にどうやって隠すのさ。」
「まあ正直時計にどうやって隠せるのとは思うけど、やっぱり自分もあの時計の動き、変だなって思ってた。なんか普通に回ってると思ったら一瞬止まって、と思ったらすぐに動き出してもとの時間を指してる。ちゃんと見ないと分からないくらいだけども。」
一応自分が感じた違和感を伝える。
「確かに変っちゃ変だね...」
「しかもよく見てみると特定の数字のところで止まってる。」
「ってことは何かそれに意味があるのか...?」
「とりあえず見に行ってみようか!」
頭をひねるタタちゃんと時計をじっと睨んでいるワワちゃんを連れて大きな壁掛け時計の前に立ってみる。
「何か怪しいところがないか探してみようか。」
3人は時計を取り囲んで隅々まで見たり触ったりしてみた。
「あっ。」
ワワちゃんが時計の右下にある装飾部分を引っ張ると何やらダイヤルのようなものが出てきた。
「時計にダイヤル?なんだか謎解きっぽくなってきたね。」
「3桁の番号を入れるっぽいよ。何の番号だろう...」
「時計に関わる番号って言えば、さっき二人が言ってた時計の変な動きが関係してるんじゃない?ほら秒針がおかしいって。」
「きっとそうだよね。でも、自分が見た感じあの秒針9のところでしか変な動きしてないんだよ。」
「9だけ?そうなると、ほかにも数字がどこかに隠れてるのかもしれないな。一体どこに...とにかく探すしかないか。」
また三人は時計を取り囲んで隅々まで見たり触ったりしてみた。
探してみた...が全然発見できなさそうであった。
「えーもうどこなのよ~。あのダイヤル以外時計に変なところないんだけど。」
タタちゃんはギブアップのようだ。
「いっそのこと全部9にしちゃうとかどうよ!」
ワワちゃんらしい発想だ。
「ちょっとどいてどいて~。」
「ちょ、ワワちゃん。」
「あ、空いた。」
「「えぇ!?」」
なんてこった、ワワちゃんの全部9にするとかいうヘンテコな考えが正解だった。
「ワワちゃんお手柄だね!クッキー食べたのは見逃してあげる!」
タタちゃんもダイヤルが解けて満足しているようだった。
「さてさて中身はー、おっ!」
ワワちゃんが開いた小さな扉から水色の四角い物体を取り出した。
題名は『ひろいそら』。
「これだ!私が昔見た絵本!早くみんなで見よう!」
私たちはそそくさと机に向かい、今度は3人は絵本を取り囲んだ。
こうやって見てみるとこの絵本の表紙は原色の水色とは違う、少し淡い優しい色をしているなと思った。
タタちゃんが表紙をめくり、いざ絵本の中身を見てみると、そこには表紙なんかよりずっと綺麗で温かい絵が広がっていた。
”みんながみているそらのそとにはそとがある”
”みんながみているそらのそとにはくもがある”
”みんながみているそらのそとにはよるがある”
”みんながみているそらのそとにはほしがある”
”ここのそらがこわれるとそとのそらがみえる”
”みんなはいつもがすきだからみようとしない”
”けれどもそとのそらはここのそらよりきれい”
”いつかみんなにそとのそらをみせてあげたい”
絵本が閉じられる。
挿絵が凄く、凄く綺麗で、脳裏に焼き付いて離れない。
絵が魅力的だったからなのか、絵本を読んでいる間すっかり引き込まれてまるで本当にこの空の外の景色を見ているかのように感じられた。
「ねぇ。」
最初に声を発したのはタタちゃんだった。
「この絵本の作者はこの空の外の景色?を知っていて、みんなに見せたがってたんじゃないかな。でも、みんなは今見えている空を崩されたくなくて外の景色を見ようとしないってことかな。」
「この空に外があるならみんなで一緒に見たいね。」
「えー、ムムちゃんこの絵本みたいなこと言ってるー!」
「あはは...」
「実際、絵本に描かれていた景色はどれも綺麗だったもんね...」
「わかるー!」
さっきまでの感動の体験に浸っていると外から車の音が聞こえる。
「まずい!お父さんが帰ってきた!」
「早く隠さなきゃ!」
「あわわわわ…」
鍵が開く音がする。
どうにか間に合えと願いながら急いで絵本を時計の中へ押し込んでダイヤルを動かす。
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