硬い空、広い空

雑草の風道

第1話 空のヒビ

ある日、家の庭から空を見上げていたら黒くて細い何かを見つけた。


それは空にできたヒビだった。


空にヒビなんて変な話だと思って見間違えってことにしておいた。


けれども、母に頼まれて行ったおつかいの帰りにもう一度空を見上げてみると、黒い何か確かに大きくなっていて、ヒビだということは疑いようもなかった。


なんだか怖くなって、いつもだったら寄り道していた公園にも行かず、足を目一杯動かして家へまっすぐ帰った。


家に着いた時、丁度お母さんは洗濯物を洗濯機から取り出している最中だったから、私は手を洗いながら自分が見たことを伝えた。


でも、お母さんはそんなわけないでしょと私の話を全然信じてくれなかった。


だから私はお母さんの手を引っ張って庭まで連れて行った。


私が指差して日々の場所を教えた瞬間、お母さんったらさっきまでの余裕が嘘みたいに慌て出した。


そりゃそうだよね、空に大きなヒビができてるんだから。


私がヒビを眺めていると、家の中からニュースが流れる音がした。


どうやらお母さんは家の中に戻ってテレビをつけたみたい。


遠目に何をやっているのか確認すると空のヒビについてだった。


あぁやっぱりみんなも見えてるんだなあと思った。


ニュースキャスターも中継の人もお母さんみたいに落ち着かない様子で話していて、こっちまで世界が終わっちゃうんじゃないかって気分になってきた。


そうだ、公園に行こう。


今の時間なら公園にワワちゃんもタタちゃんも遊んでるだろうし、タタちゃん頭良いから何かわかるかも!


お母さんはニュースを見るのに夢中だったから、こっそり荷物が積み上がっててきい感じに庭の塀を越えられるところから道路に飛び降りた。


公園に向かってる最中も空のヒビは大きくなってるようにみえた。


3回目の角を右曲がって公園が見えてきた時、一緒に土管の上に座ってる2人の姿も見えた。


「おーい!ワワちゃん!タタちゃん!」


手を振りながら向かっていく。


「あ、ムムちゃん!」


ワワちゃんがこっちを向くと、遅れてタタちゃんもこっちに気づいて2人とも手を振りかえしてくれた。


ずっと走って来てたから少し息を弾ませつつ2人に聞いてみる。


「空のヒビ、みた?」


内心、お母さんやニュースの人たちはヒビを怖がっていたから2人も怖がっちゃうんじゃないかって思ってた。


けど、2人は全然平気な様子で、

「あー!あそこにあるよねー!」

「私たちが遊んでる最中にヒビに気付いてさっきまであの正体について話してたとこだよ。」

と答えた。


よかった、けどワワちゃんもタタちゃんも知らないのかな?


「2人はあのヒビがなんなのか知らないの?」


「うーん、全然わかんない!」


「私も分からないなぁ。あ、けど、昔なんかの本でそれっぽいことを読んだ気がするかも?」


「「本?」」


私とワワちゃんで聞く。


「昔読んだ絵本だった気がするんだけど、確か内容はこの空の外についての話だったはず。」


この空の外?空に外なんてあるの?と私は思いつつタタちゃんは続けて話す。


「あの絵本が言うにはね、空の外には色々なものがあるらしいんだ。


クモってやつとかホシってやつが見えるんだって。


まあ、絵本にかいてあったことだから、どこまで本当かわからないけd…」


「えー!何それ初めて聞いた!どんな形してるのー!」


タタちゃんの話を若干遮りぎみでワワちゃんが絵本の話に食いついてきた。


なんとなく予想はしてた。


ワワちゃんは割と新しいことやものを知るのが好きだからね。


「…それで、クモとかホシってどんな感じなの?私もちょっと気になる。」


一応自分も気になってはいたのでワワちゃんとは違って落ち着いて聞いてみる。


「えーとね、絵本に載ってたクモは白くてモコモコしてて柔らかそうな感じで、ホシは空一面に沢山あって、物凄く小さい太陽みたいな感じだったよ。」


「白くてモコモコ…」とワワちゃん。


「小さい太陽…?」と私。


「実際に2人に見てもらった方が分かりやすいと思うから本当は見せてあげたいんだけど、読んでる時にお父さんに見つかっちゃって、そのまま取り上げられちゃったんだよね…。

もしかしたら隠してあるのかもしれないし、捨てられちゃってもうないかも…。

なにせ昔の出来事だからね。」


「そっかぁ…」

ワワちゃんはそれを聞いて肩を落としてしまった。


「ねえ、今タタちゃんちって親いる?」


「2人とも仕事で出かけてるから多分いないと思うよ。」


「それならさ、帰ってくるまで絵本探ししようよ!」


「ええ!あるか分からないんだよ?」


「分からないからだよ!捨てれてるって分からないならどっかに隠れてるかもしれないじゃん!」


いつの間にか私もこの話に食いついていた。


「うーん、まあ帰ってきたら帰ってきたで適当に言い訳言えばいっかぁ。」

渋々タタちゃんは賛成してくれた。


「もちろんワワもオッケーだよ〜。」

ワワちゃんは相変わらずの様子だ。


私たちは早速タタちゃんの家に向かうことにした。


「「失礼しまーす。」」


ワワちゃんの家には何度か行ったことがあったが、タタちゃんの家にはまだ1度も行ったことがなかったな。


玄関に入ると木のいい匂いがした。


自分の家でこんな風に匂いを感じることはあまりないけれど、友達の家とかだといつもと違う不思議な匂いがする。


確かワワちゃんの家はクッキーの匂いだったかな?


そんなことを思いつつ、とりあえずタタちゃんの後ろについて行っておく。


「ここがリビングだからそこのソファーにでも座ってのんびりしてて。今お茶とお菓子持ってくるから。」


やっぱりタタちゃんは礼儀正しくて大人びている。


ちょっと前に見かけたタタちゃんの両親は服がピシッとしてて、見た目通りしっかりした両親なんだろうなと想像した。


ふと壁掛け時計を見てみる。


なんだか時計の動き方に違和感を感じる。

タタちゃんちは全体的にちゃんとしてる感じだけど、意外とうっかりしてるところもあるんだなあ。


「持ってきたよー!」


「わぁ、クッキーだ!」


「ワワちゃんクッキーが好きだろうと思って持ってきたんだ。」

ふふんとタタちゃんが笑う。


「どれもおいしそうだね!でも、どれもちょっと高そう...」

流石に高級なお菓子を食べるのは気が引けた。


「いやいや気にしないで、来客用のお菓子だから友達が来たときは自由に出していいってお母さんが言ってたから。」


「そうなの?じゃあ遠慮なく!」


タタちゃんの言葉に甘えてぱっと近くのクッキーを口に運ぶ。

サクサクしてて、口に入れた瞬間バターの風味が口や鼻いっぱいに広がっておいしい!


「こんなにおいしいお菓子ありがとう!はじめてこんなにおいしいお菓子食べたよ!」


「そんなに褒めてくれると、自分が褒められてるわけじゃないのに嬉しくなっちゃうな。」

タタちゃんが少しはにかんでいて、いつもの固い雰囲気が少し柔らかくなったように見えた。


「ねーねー、絵本の話はどうなったのー?それを探すためにタタちゃんちに来たじゃんかー。」

クッキーを口いっぱいに入れてて若干もごもごいってるが、ワワちゃんの意見ももっともだ。


「あ、そうだったねごめんごめん。まあ、とりあえず二人に絵本探しに協力してもらうためにはその絵本の見た目を教えようかな。確か表紙は水色で、大きさはムムちゃんの近くにある細長いクッションを半分にしたくらいで、題名はこんな風に書いてあったよ。」


タタちゃんは机にあった適当な広告の裏にペンで『ひろいそら』とポップなフォントで描いた。


タタちゃん絵も上手いからきっとこんな見た目なんだろう。


「どのくらいの厚さだった?」


「アツさ?温度のこと?」


「流石に違うよワワちゃん、分厚さのことだよ。」


「あーそれかー!」


ちょっとワワちゃんは天然なところがあるよなあ。


「ええと。分厚さは一般的な絵本と同じくらいで、そんなに分厚くも薄くもなかったよ。」


「なるほど、まあ普通の絵本ってところかな。」


「そうなるね。」


「ここでずっと話してても見つからないし、早速探しにいこう!」


「はーい!」


「りょーかい!」

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