第4話 俺

 「バチ当たりますようにって石噛地蔵にお願いしてきたわ」そう書き込んだのは、俺ではない。


 だが、俺は石噛地蔵を前々から知っていた。


 何しろ、そこは地元だし、近所だ。


 だから、今、窓の外で鳴り響く救急車やパトカーのサイレンの音も聞こえている。


 本当に通報した視聴者がいたのだろう。


 まぁ、無駄だろうが。


 石噛地蔵は、便宜上そう呼ばれているだけで、地蔵ではない。


 土地に古くから伝わる伝承によると、悪鬼羅刹の類だという。


 かつてこの山中を根城とし、暴虐を繰り返し、村々を荒らした鬼がいた。


 人の脂を絞り行灯にし、生き血を集めて風呂にし、しゃれこうべを集めて椅子にしたと伝わる壮絶な鬼だった。


 だが、やがてその鬼を朝廷の大群が討伐した。


 首を刎ねられるも、首だけで武士に襲い掛かり、その頭を嚙み潰したという。


 その壮絶な死にざまゆえに、祟りを恐れて塚が作られた。


 一説には、鬼などではなく、朝廷にまつろわぬ豪族を、あしざまに描いたものとも言うが、あまりに古い伝承ゆえに、詳しいところはわからない。


 塚に安置されたのが、石噛地蔵なのだ。


 おそらくは別の名前、石噛様などと呼ばれていたと思われるが、時代が下るにつれ、地蔵と混同されたのだろう。


 いずれにせよ、その口に石を詰めるのは、願いが叶うからではない。


 口が開くと、災いをもたらすとされているからだ。


 つまり、人々は恐れから石を噛ませていたわけだ。


 現代においてもそれほど恐れられるのには訳がある。


 この山に高速道路を通すため、撤去工事をしようとしたところ、地震で重機が倒れ、作業員の頭が押し潰されただとか、工事を許可した権禰宜が車に轢かれて頭を潰されただとか、まるで巨大な口に頭を噛み潰されたかのような事件が頻発したからだ。


 実際のところ、頭が潰されたのかは定かではなく、そういう噂があるだけだ。


 死者が出たのは事実で、高速道路は別ルートを通ることになったのも現実だ。


 それだけではなく、石噛地蔵付近の道路では、車での死亡事故が多発しているのだ。


 それも正面衝突が多く、運転席はぺちゃんこになっているものばかり。


 流石に土地にの人間は畏れ、普段は近づかない。


 そんなところに、罰当たりボーイズは向かった。


 あまつさえ、罰当たりな行動をとった。

 

 これは、必然だったのかもしれない。


 相変わらず救急車の音は絶えないが、カメラが壊れたのか、運営がBANしたのか、配信は止まってしまった。


 画面は真っ黒で、反射で自分の顔が映っていた。


 ああ、俺は笑っていたのか。


 あの映像を見ながら。


 と、ピンポーンとインターフォンが鳴った。

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