第2話 感想欄の光
土曜日の昼下がり。仕事もなく、外に出る気力もなく、翔太は布団に寝転がっていた。
スマホを手に取り、無意識に「なろう」のマイページを開く。クセになってしまっている。
「……ん?」
目を疑った。
通知が1件ついている。
感想:『夜を旅する者たち』
感想——。
最後に来たのは、いつだったろう? いや、もしかして初めてかもしれない。自分の小説に、誰かがわざわざ言葉を残してくれるなんて。
震える指で通知を開く。
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ユーザー名:ハルネ
> はじめまして。夜中に偶然この作品を見つけて、一気に読みました。 登場人物の感情が丁寧に描かれていて、すごく心に沁みました。 特にラストのセリフ、「この世界は、まだ終わっていないんだって信じたい」が、私の中でずっと残っています。 たぶん、私も誰かにそう言ってもらいたかったんだと思います。 素敵な作品をありがとうございます。
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短い文なのに、胸がぎゅっと締め付けられた。
ずっと空っぽだった場所に、ポツンと灯りがともったような感覚。
誰かが、自分の書いた言葉に心を動かされた。それだけで、もう十分すぎる気がした。
翔太は、すぐに返信を書くことにした。
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> ハルネさん、はじめまして。感想ありがとうございます。 この作品は、実は途中で投げ出そうか迷っていたものでした。 でも、読んでくれる人がいるってことが、こんなに嬉しいなんて。 ラストのセリフも、実は自分自身に向けて書いた言葉だったので、そう言ってもらえて救われました。 本当に、ありがとう。
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返信を送ると、ふっと息が漏れた。
この数年、ずっと「無反応の海」に言葉を投げていた。
波紋もなく、沈んでいくばかりで、誰にも届いていないと思っていた。
でも——届いていた。
たった一人。たった一人の読者が、「読んだ」と言ってくれた。
その夜、翔太は久しぶりに物語を書き進めた。
まだラストまでは遠い。でも、続きを待っている人がいる。それだけで、背中が軽くなる。
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数日後、ハルネからまた感想が届いた。
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> 続き、読ませてもらいました。登場人物が前に進もうとする姿に、私も勇気をもらっています。 実は私も、ちょっと前まで何もかもやる気が出なくて……。 でも、小説って不思議ですね。誰かの想いが、画面越しにちゃんと届くんだって思いました。
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返信を書きながら、翔太は思った。
「書くこと」が、こんなにも人と繋がれるものだったなんて。
ずっと、自分だけが孤独だったんじゃない。読む人もまた、どこかで孤独と戦っていた。
物語は、心の避難所だ。
誰にも言えない痛みや、不安や、希望。
現実には見せられないけど、文字なら伝えられる感情。
翔太は、その日から、少しずつ更新を続けた。
ハルネは毎回、必ず感想をくれた。長くも短くもないけれど、いつも心のこもった言葉。
PVが伸びなくても、ランキングに載らなくても、翔太の「書く理由」は、もう見つかっていた。
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