更新停止の夜に

@KAZUMASAYAN

第1話 月夜のPV数


 真夜中、蛍光灯の下でキーボードを打つ音だけが部屋に響いていた。


 山崎翔太、三十四歳。職業は……一応会社員。都内の小さなIT企業でWEBデザインをしている。特別クリエイティブな仕事ではない。依頼されたデザインに沿ってバナーをつくり、コードを少しいじる。八年もやっていれば、何も考えなくても手が動くようになる。


 けれど、翔太の本当の居場所はここではない——少なくとも、そう信じていた。


 「小説家になろう」

 その響きは、初めてログインした日からずっと、彼にとって眩しいものだった。


 自分の物語を誰かに読んでもらいたい。

 日常を超えて、ページの向こうで誰かが共感してくれる。笑ってくれる。泣いてくれる。——それがたまらなく嬉しい。


 けれど、現実は冷たい。


 投稿ボタンを押してから一時間。ページをリロードしても、閲覧数は「3」のままだった。

 もちろんそのうちの「2」は、自分自身の確認だ。


 「……はは」


 乾いた笑いが漏れた。慣れているはずなのに、毎回どこか心が削られる。


 この話だって、プロットに一ヶ月、執筆に三週間。推敲に三日。

 仕事終わりと休日をすべて注いでようやく仕上げたのだ。


 ——でも、誰も見ていない。


 「なんでだよ……」


 ランキングを開く。

 人気作は、異世界、ハーレム、ざまぁ、ステータス。カクヨムと同時投稿。なろう特化テンプレを網羅して、しかも更新頻度は毎日。……プロか、というくらいの手際だ。


 翔太も最初は、異世界ものを書いてみたことがある。だが、テンプレに乗ろうとするほど、何かがズレた。

 自分は、自分にしか書けない物語を……なんて、気取った結果がこれだ。


 今夜も、通知はない。感想も、ブクマも。


 「もう、やめたほうがいいのかもしれないな……」


 何度目かの言葉だった。


 でも翔太は、そのままログアウトせずに、マイページを眺めた。

 今まで投稿してきた小説の一覧が並んでいる。完結した作品が三つ。途中で投げたのが二つ。エッセイ風の短編集が一つ。


 誰のために書いてるんだろう。

 仕事をして、生活に疲れて、それでもパソコンに向かうこの時間が、本当に幸せなのか。


 ……それでも、明日も書いている自分が、想像できてしまう。


 翔太はそっと、ページを閉じた。


 眠れないまま、夜が明けた。

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