第20話


「……証拠?」



私はさっき翔がこそこそ片付けていたアルバムを手に取り、中から一枚の写真を抜き出した。



そして──それを翔の胸に叩きつけた。



「これでも証拠がないって言えるの?」



写真には翔とかなこが笑い合いながら肩を寄せ合う姿。


まるで恋人のように、自然で、親密で、見覚えのない“裏の顔”。



かなこはその写真を見て崩れるように座り込み、涙をこぼし始めた。


「……これは……ただの出来心で……本気じゃなくて..」



さっきとは違い弱々しい声の翔を見て私は呆れしかなかった。



「出来心...?私のこと本気で好きって言ったじゃん!結婚したいって言ったよね!?全部、ウソだったわけ?」



かなこが翔に詰め寄る。

目の前で繰り広げられる茶番劇。


「かなこ……ちょっと黙っててくれる?今は……待ってくれ」


「なんで!? 今すぐ別れてよ!私と付き合うって言ったじゃん!」



2人は私の目の前で言い争いを始めた。



その光景を見つめながら、私は心の底から冷えきっていた。


(ああ……私は本当に舐められてたんだ)



「……いい加減にして」



私の声が空間を切り裂いた。


かなこも翔も、私を見て動きを止めた。



「いい加減にしてって言ってるの。

なんでかなこが泣いてんの?


泣きたいのは私の方だよ」



震える声で涙を堪えながら私は訴えた。



「親友に裏切られ、彼氏にも裏切られて。

なんでその2人のケンカを私が見なきゃいけないの?

もう本当に無理。ありえない……」



私は深呼吸をし最後の言葉をぶつけた。



「別れて?──あんたなんかこっちから別れてあげる。

結婚の話?あぁそれ私にもしてたんだよ。

……こんな男、どうせまた誰かを裏切るに決まってる。

かなこ、あんたもそのうち浮気されるよ。

どうぞこんな男とお幸せに。」


皮肉と怒りを込めて吐き出すと、私は背を向け玄関へと向かった。



「……るな、待って。行くなよ」


翔が追いかけてきて私の腕を掴んだ。


後ろではかなこが泣きながらこっちを見ている。



「……離して。もう二度とあんたには会いたくない。

……私に触らないで」



その言葉とともに私は力強く翔の手を振り払い扉を開けた。


――背後に残ったのは、嘘と、裏切りと、後悔の空気だけだった。


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