第4話 裏切り2


家でひとり、ぼんやりと時間を潰していると嫌な記憶ばかりが頭の中を埋め尽くしてくる。


誰かに会いたい。でも、誰でもいいわけじゃない。

そんな時、思い浮かんだのは彼だった。


以前預かっていた彼の家の合鍵がある。

電話はつながらないけれど、もしかしたら家にいるかもしれないし、いなくても帰ってくるまで待っていればいい。


私は簡単に準備をして、少し気持ちを落ち着けるように深呼吸してから家を出た。



――彼の家の前に着いたとき、ポケットの中でスマホが震えた。


「あっ、彼かも……」


そう思って画面を見ると、表示されていた名前はあの親友、かなこだった。


一瞬、呼吸が止まった気がした。


どう出ればいいのかわからなかった。


あれだけ私の悪口を裏アカで書いていたのに。

「こいついらなーい」なんて言って私の写真まで添えて。


私のことなんて嫌いなくせに。

それなのにどんな気持ちで私に電話を?


迷っているうちに着信は切れた。

でもすぐにまた着信音が鳴る。


(なんなんだ、一体……)


仕方なく私はゆっくりと応答ボタンを押した。


「……もしもし?」


「なんだよーww 出るの遅い!www なにしてるのー? 今日ごはん行こーよ! 相談あるんだけどwww」


声はいつもの明るく軽いかなこだった。

まるで、あの投稿も裏アカの存在も、なにもかもなかったかのように。


(私に相談って……あれだけ嫌ってたのに)


心の中で苦くつぶやく。


でも、波風を立てたくはなかった。

怒りや悲しみを出してまた何か言われるのが怖かった。


「いいよー。何時か決まったらまた連絡してー」


「おっけー! 連絡します! またねー!」


そのまま、あっさりと通話は切れた。


スマホを耳から離してもまだ心臓の鼓動は早かった。


画面に残った「通話時間 01:17」の文字が、妙に長く感じられる。


私は今、誰とどう関わって、どこに向かっているんだろう。

本音も、感情も、全部飲み込んで笑っている。


私は全ての感情を押し殺し彼の家のインターホンをそっと押した。


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