第6話 君は高天

憂と初めて会ってから二週間くらいが過ぎた。あっという間で、もう7月も終りを迎えていた。いつものように私はあの場所に行き、先に待っていた憂に話しかける。

「わっ!!憂、こんにちはっ!」

「!!」

いたずら心から驚かしてみると、憂は本当に鳩が豆鉄砲を食らったような顔を向けた。

「びっっくりした〜…。もーおどかさないでよー…。」

「えへへ、ごめんごめん、そんなに驚かれるとは思わなくってさ〜。」

言い訳をしつつ私はさり気なく憂の隣に腰を下ろす。

「憂、なにか考えことでもしてたの?」

「あ、う、うん。そう、だね。」

そう言って憂は顔を軽く背けた。聞いちゃいけないこと聞いたのかな…?!

私はドキドキしながら憂の次の言葉を待っていた。憂はしばらく黙ったあと決心したような顔をして私を見据えて言った。

「あ、あのさっ、夏祭り一緒にいかないっ…?」

「…え、と…」

憂は身を乗り出して不安の混じった顔を私に向けて固まっていた。

思わず仰け反りそうになった体をなんとか抑え込んで、私は必死に言葉を探した。

「…もしかしてもう先に約束しちゃってた…?」

憂の不安が増幅しているのが明らかにわかる、でも頭の中はぐちゃぐちゃで言い訳が思いつかなかった、でもとにかく否定しなければならないから首を横に振って言い訳を考えることにした。

「あ、ううん!そうじゃなくて!夏祭りなんてあるのかな、って思ったの。」

「そうだったの?なら良かった。」

いつもの無邪気な笑みに変わる。でも今回の笑みは安堵もこもった大人びた無邪気だった。その顔を見て私も安心した。

「この近くにちょっと大きな神社があって、毎年そこで夏祭してるんだ。屋台もいっぱいあって楽しいんだよ。」

「そうなの?!楽しそ〜!!」

「へへっ、そーだろ?お祭りは明々後日なんだけど、予定とか入ってたりしない?」

「大丈夫!今から楽しみだな〜!」

お祭りが大好きな私からすればすごく嬉しい提案。その上相手から誘ってくれるなんて夢にも思わなかった。

「憂から誘ってくれて嬉しいな…。」

嬉しくてつい独り言をこぼした。あまりに小さいから聞こえないと思った。けど、それでも憂はそれを拾った。

「恋夏…なんか嬉しいな…。誘っただけで喜んでもらえるなんて。」

「あはは、だっていつも遊びに誘うの私からだからさ、なんか新鮮だし嬉しいんだ。」

「そうだったのか、じゃあこれからも俺がいっぱい遊びに誘うからな!」

太陽に照らされて眩しさに拍車をかけた憂の顔を見てたらなんだか笑いが込み上げてきて、

「ふっ、ふふ、あはははっ。」

「えっ!?なんで笑うのさ!」

「だってっ、ふふっ、憂の顔太陽に照らさてふふっ、眩しくってなんか神々しいんだもんっ…!あははははっ…」

「なんだよそれ〜!あはははっ…」

涙が出てきたけれど、これは笑ったからなのか昔のことを思い出したからなのかよくわからないけど、そんなことは眼の前で笑う憂の顔を見てるとどうでも良くなった。


ひとしきり笑ったあと、二人で海を眺めた。その後憂は顔を上げて空を見ていた。

「あ、なーなー!恋夏あの雲猫が座ってるみたいじゃね?!」

そういってまわりよりちょっと大きな雲を指さしはしゃぎながら言った。

「わあ、ホントだかわいー!」

「あ、みてみて!あの丸い雲は…たこ焼きみたい!」

「ぷはっ、あはははは!恋夏は可愛いな。」

「っ…!?ば、バカにしてるっ!?」

照れ隠しでつい口に出した、その言葉はホントは言わなくてもい良いこと。

「あはははは、そうじゃなくてー…」

憂はひとしきり笑ったあと涙を軽く拭って、私の方に顔を向けた。

「お祭りそんなに楽しみなんだなーって思っただけだって。」

「…あっそ…。」

なんだか悔しいから私はそっぽ向いて、どう弁解するか考えていた。

「拗ねちゃった…。」

後ろからしゅんとした声が聞こえてきた、だからわたしはすぅっと息を吸い、ばっと憂のほうを向いた。

「だって、憂と初めてお祭り行くんだもん、楽しみに決まってるじゃん。」

「!」

憂は私の言葉を聞いて嬉しそうに驚いて、そしておもいっきり微笑んだ。

「じゃあ、たこ焼き絶対食べような!」

「うんっ!」


「それで、今日はどんな天気の不思議を教えてくれるの?」

「今日の天気の不思議はなー、雲!」

「雲。」

「雲は10種類もあって、いろんな形もあって見てると楽しい。」

「あの雲は積雲、もしくは綿雲。あっちに広がっているのは巻積雲、もしくはうろこ雲っていう。」

「いろんな名前があってさ、なんか楽しくない?」

「ふふっ、楽しい。」

「あとさ、雲は水蒸気だったり氷の塊の集合体なんだけど空に浮いてたり風に流されてるのなんか不思議じゃない?」

「確かに…考えたこともなかったな。」

「それはまた今度教えるな。」

そういってちょっと大人びた笑みを私に向けた。

「えー、なんで、今日でもいいでしょ?」

「もう夕方だから帰らなきゃだから、ほら送るよ。」

「じゃあ、帰りながら教えてよー!」

「だーめ。そんな気になるなら調べてみたら?」

「いじわる。」

不機嫌をあらわにして呟くと、憂は微笑んで私の頭を撫でた。

「また明日、いいね?」

「はぁい…。」

「いい子だね〜恋夏は〜。」

お互いふざけ合えるくらいの仲になって、生まれて初めて親友が出来た気がする。




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