第26話 罠と調査


 星野に協力してもらい学園の外にすんなりと出れた揚羽は尾行に意識を向ける。

 今の所はどうやら大丈夫なようだ。


 魔力量が懸念されるが、魔力探知の幅を広げ常に星野の安全については確認しておくことにする。それともう一人の行動についても。

 つまり魔力探知の範囲を離れない程度の外出ということで無制限に行動できるわけではない。なので。会いたい人物に学園を出る前、電話してこっちに来てもらうことにした。


「ねぇ? どういう風の吹き回し? 軍とは協力しないと言っておいてただの一般人が私を気軽に呼びだして。私忙しいんだけど」


 口では文句しか言わない立場上とても忙しい身分の女性。

 とはいっても、こんな状況では通常業務の殆どが止まっていることは明白。

 つまり果報は寝て待て状態だと踏み電話をしたら、案の定光の速さで来てくれた。それにしても目の下のクマが凄い。疲労と寝不足と年のせいだろうか……。

 一瞬でも暇してると思ってごめんなさいと心の中で謝っておく。


「なにか新しい情報掴めた?」


 学園から少し離れた路地裏で見つめ合う男女。

 女が腕を組んで考える。


「はぁ~。わかった。ちょっと待って」


 そう言って田中は遮光性と遮音性が百パーセントに近い特殊な結解を発動した。


「アンタ衛星で監視されてる。だからアンタの魔力探知にも引っかからなかった。そしてSNSの画像の殆どが衛星から撮影されてAIが編集した物だとわかった」


 その言葉に揚羽は天を見上げるが、見えるのは黒い結解だけ。

 外からも見えないということは当然中からも見えるわけがないのだ。


「軍の衛星?」


「そう。キラって奴が当たりだった。アイツ『Luminous』の正規メンバー。美香ってやつと他の捕虜はただのアシスト的存在で下っ端。今朝だけで七件アイツの暗殺が来てる」


「軍の衛星……道理で今まで見つからないわけだ。普通疑う余地すらないし気づくの無理だもんね」


「そうね。内部の人間全て敵と疑えばすぐに気づくんだけどね」


「疑ったんだ?」


「まぁ」


「色々情報を持ってるってことはあんなに弱くて中堅クラスだってことか」


「だからでしょ? パッと見、若い小僧。アイツなら口を滑らしてもチャラチャラした格好のせいかでたらめ言っているようにも見えるとかの理由がありそうよ」


「なるほどね~。自白剤効いたんだ」


「ううん。時間ないしちょっと力づくで聞いた」


 首をぽきぽきと鳴らしながら、少し怠そうに答えた田中に揚羽は思わず半歩引いてしまった。


「そこについては詳しく聞かない方が良さそうだね。あはは~」


 少し機嫌が悪そうに見えるのは、朝から色々あって疲れているからなのだろう。

 普段なら手入れされている髪の毛が今日はぼさぼさなのも、そこに気が回っていないからだと考えるべきだろう。


「学園の内通者とかわかったりしてない?」


 すると、田中がため息を見せた。


「わからない。裏切り者の守護者、学園の内通者、そしてアンタが戦った魔法使いの情報だけがどうしてもね。それと小田信奈だっけ? そいつのことも。全てが確信できない」


「情報の改ざん? それとも消されてるとか?」


「そんな所ね。守護者の権限が高すぎるせいで、私でも誰がログやそれに関わるであろう情報を消しているのかわからない。ただ安心して」


「なにか策でもあるの?」


「罠を仕掛けたから」


 どうやら田中は田中ですでに動いていて、情報を得る包囲網を作りあげているようだ。


「まぁ、今の所陛下も安全そうだししばらくこのままアンタと二人でいるのも悪くないかもね。アンタがしてきつくないならね」


 そう言って路地裏の壁に腰を降ろす田中。


「守護者に裏切り者がいるのに大丈夫?」


「えぇ。全員護衛に付けたから三人以上が裏切ってない限り大丈夫よ」


「本当に?」


「仮に三人でも残りの二人が守る。時間稼ぎは出来るだろうから、その時は私が直接動くつもり。ってもその可能性はかなり低いから大丈夫。一応女王陛下からも「好きにして~」って言われてる」


 なんてラフな返事。

 と思うかもしれないが、今の女王陛下――峰岸遥は揚羽と田中の前では結構軽い返事を言ったり冗談を言ったりと普通の女の子ような一面を良く見せてくるので違和感はない。


 ――それから数十分が経過し三限の授業が終わった頃。


 スマートフォンが鳴った。

 揚羽が確認すると星野からだった。


『動いた。今回も紙をサッと書いてアンタの机に置いてる』


 そのメッセージに授業中でありながら把握されていたことが判明。


 どうやって知ったのかそのトリックがわからないが、どうやら監視はされていると見て間違いなさそうだ。


 そしてもう一つのスマートフォンも鳴った。


『かかったわね』


 田中が小さく微笑んだ。


「誰が裏切り者かわかったの?」


「えぇ。どうやらキラって奴は殺されたみたいだけど、おかげで特定できた」


「そういうことね」


 揚羽はなぜ田中がここで待機していたかようやく理由を悟った気がした。

 田中が近くにいないことで相手の警戒心が弱まるのを待っていたのだ。


「もしかして女王陛下もグル?」


 不意にニコッと満面の笑みを向けられた。

 揚羽は頭が痛くなった。

 プライベートの関係まで使ったのか、と。

 それにしてもリスク取り過ぎと言いたかったが、どうやら軍の方は時期に鎮静化するだろう。そして学園側も早めに決着を付けなければ新しい被害者が増えてしまう。


 学園には特異体質者の生徒と教師が沢山いる。

 それは『Luminous』にとっては宝石箱のようなもの。

 このまま大人しく手放すとは到底思えない。

 必ずどこかで大きく動いてくるはずだ。


「やっぱり似てるわね、私たち」


「そうだね。おそらく似たような手段を使ったんだろうね」


「教えて。そっちの一番怪しい人物は?」


 田中の質問に揚羽が理由と一緒に回答を述べると同じように田中からも情報が教えられた。


「てか、学園の工作員ってアイツ?」


「うん。多分ね」


 田中はなにかを思い出したように。


「アイツ特異体質者だったわね。そもそも青眼の特徴は?」


「えっ? 透き通る世界に関連した特異体質じゃなかったけ?」


「そう……もしかしたら深く関わりがあるものや特定の者の未来が視えているのかもしれない」 


「そんな特異体質者聞いたことないけど?」


「アイツらの本文は遺伝操作に深く関わりがある。もし自分の特異体質を都合が良いように強化もしくは進化させることができるとしたら、アンタがさっき言った行動ともかみ合うかもしれない。そう思わない?」


 突然、嫌な予感が揚羽に襲い掛かって来た。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る