第21話 ありのままの再会
揚羽は誘われるまま田中に付いて行った。
「なに食べたい?」
「なんでもいい」
少し遅い昼食。
平日のそんな時間帯では王都二番区の中央通りに並ぶ飲食店は殆どお客さんがおらず食べたい物がすぐに食べられる状況だった。
チラチラと田中を見るが、嫌そうな雰囲気はない。
でもなんというか揚羽としてはちょっと嫌われていると思っているだけに、これはこれでどこか気まずい。
「っても、好き嫌い多いしね~」
突き刺さるような視線に苦笑いの揚羽。
たしかに好き嫌いが多いのは認めるしかない。
それにしてもいつもの冷たさやとげとげしさがこの前会った時よりはない感じに違和感を覚える。
「甘い物でも食べる?」
「食べる」
「ならあそこのカフェで!」
どこか楽しそうに答える田中。
自然な笑みに懐かしさを感じる。
お店に入り店員さんに注文を伝えて席に座る。
「お待たせいたしました。ご注文のストロベリーパフェとアイスカフェモカです!」
元気の良い女性店員がすぐに商品を持ってきてくれた。
「ご注文の品はお揃いですか?」
「はい」
「ごゆっくりどうぞ!」
そのまま元気の良い声を残して、カウンターに戻って行く店員を見送ってから揚羽はあることに気付く。
「あれ?」
「私がどっちも注文したから私がパフェで紅が珈琲と勘違いしたんでしょ。ほら交換」
「なら遠慮なく。いただきます」
疲れた心と脳に糖分補給。
幸せだ。
やっぱり人間甘党に限る。
幸せ顔でパフェを食べる揚羽は気付かない。
自分がチラチラと田中に見られていることに。
そして田中の表情が無意識に柔らかくなっていることにも。
「美味しい?」
「うん!」
「ふふっ。それは良かった」
「奢ってくれてありがとう」
「は~い。気にしないで」
こうしてパフェと珈琲を楽しむ二人。
この時が永遠に続けばいいと願うも残念ながら終わりが来ない時間はない。
だけど今だけは――素直なありのままの自分を見せる二人。
そうすると不思議で歯車が綺麗に重なり合うのだった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ――談笑が終わる頃には日が沈み始めていた。
「あはは~。本当おばかさんね。私に言えばいいじゃない」
「やだよ~恥ずかしい」
「照れちゃって可愛い!」
「……美紀の意地悪」
「それで紅は彼女できた?」
「ううん。美紀は?」
「私も~。どこかにいい人いないかな?」
キラキラした眼差しで揚羽を見つめる美紀は活き活きしている。
「美紀ならすぐに見つかるでしょ。今も軍の男たちから高値の華扱いされてるんでしょ?」
「そうじゃないの。一緒にいて自然に笑顔になれる人、一緒にいて安心できる人、この人の為なら苦労することも頑張れる、この人となら老後生活も楽しいだろうな~って思える人と一緒になりたいの。容姿も確かに大事だよ? でも容姿や地位や名誉なんかじゃない。私の理想は目に見えない所を満たしてくれる人なの」
「そっかぁ。なら俺は?」
「ないよ~」
「胸ばかりチラチラ見てるえっちな人とはないかな~」
「なっ!?」
「ばればれよ。女はそこら辺男が思ってるより敏感なの覚えておきなさい」
「……むぅ」
「あはははは! フグみたい! 可愛い!」
たわいもない時間。
二人にとっては息抜きできる数少ない相手との時間。
「あれ? もうこんな時間」
「ほんとだっ!」
「ならまたご飯行こ?」
「いいよ」
何時間経っただろうか。
そんなことどうでも良いやと思える。
そう思える時点で充実した時間を過ごせたと言える。
気付けば心がとても軽くなっていた。
これも田中との会話の効果だろうか。
「帰る前にちょっとだけ相談のってくれない?」
だからだろう。
田中を信用し頼ろうと思ったのは。
それから揚羽は今朝の件を田中に伝えた。
――。
――――。
再び空軍基地にやってきた揚羽は田中に怪しい検問兵のことを現地で伝える。
それから揚羽は田中と一緒に怪しい検問兵二人の元へと向かう。
今回は堂々と正面から。
すると、夜の暗道で顔が見にくい為か声が響いた。
「止まれ! ここは特別監視区域だ! 関係者以外立ち入り禁止だ」
その質問に揚羽は、
「俺は先日ここの一員となった」
そう答えた。
「だったらそこで合言葉を言え」
軍関係者が合言葉で通行人を識別することはない。
通行には守護者以上の許可を得た者。
例外はない。
向こうは揚羽の背中に隠れた田中の存在にまだ気づいていない様子。
まぁ、検問兵も私服の田中の姿など想像も付かないのだろう。
これで黒が確定した。
「すまない。新人のため合言葉は今度来た時に教えるとキラさんに言われた」
「お前はキラの客人か?」
「そうだ!」
「今確認する。そこで少し待て」
検問兵が懐からスマートフォンを取り出そうとした瞬間、揚羽より早く田中が動いた。
気配も殺気もなく。
ただ息をするかのように。
それでいて揚羽でも一瞬反応が遅れてしまうほどに自然な動き。
そのまま鎧の上からの鉄拳制裁を受けた検問兵は気絶してしまった。
「信じたくなかったけど、これが現実なのね」
田中はやれやれと付け加えて。
別の部下を呼び、検問兵を牢屋に連れて行くように指示した。
「素手でワンパン……痛くない?」
「べつに?」
既にプライベートの田中はここにいない。
いるのはオルメス国の総隊長田中の姿だけ。
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