お金では買えないもの
最近、幼馴染のすばるんが私に隠れて何かをしている。小学校の放課後に遊びに誘うと、お母さんの手伝いをするから家に帰ると言い、休みの日はお父さんと二人で出かけていた。
一度、手を掴んでしつこく聞いてみたら、私には話さないと言って逃げていった。すばるんのお母さんに聞いても口止めしているみたいで、話さないでって頼まれているからと言われるだけ。
今日はせっかく楽しい日なのに。私が話す前にすばるんが私の前から離れていくから、結局誘えなかった。私、嫌われたのかも。ベッドの上で膝を抱えると目から涙が溢れてきた。
この前、先に漫画を読んだから怒ったのかな?
もう私とは一緒に遊んでくれないのかな?
「七海、降りてきなさい。ケーキ食べるわよ」
「ぐすっ。うん、いまいくー!」
涙で濡れた顔を拭いながら階段を降りる。私がリビングのドアを開けると、同時にクラッカーの音が盛大に鳴った。驚いて目をぎゅっと閉じる。
「「誕生日おめでとう!」」
「……ほへ?」
聞き覚えのある声が聞こえてゆっくり目を開ける。すると、目の前にはお父さんとお母さん、それにすばるんがいた。
「ほら、プレゼント」
すばるんはそう言って、今まで背中に隠していた丸いものを私に差し出した。目を丸くして受け取る。それは、赤いリボンがついているバスケットボール。
「……これ、私に?」
「お前以外に誰がいるんだよ。何がいいのか悩んだんだけどさ」
照れくさそうに頭を掻きながら、すばるんは話してくれた。私の誕生日プレゼントを買うために、最近の放課後はお母さんの手伝いをして、休日はプレゼントを選ぶためにお父さんと出かけていたことを。
「七海は食べるのが好きだけど食べ物は食べたら無くなるし、七海はゲームやらないし。それで、七海は動くのが好きだからバスケットボールはどうかなって」
「……ぐすっ。嫌われたのかと思ってた。別にこんなの、買わなくてもよかったのに」
「こんなのってなんだよ。俺が一生懸命選んだのに……って、泣くな! そ、そうだ。七海のお父さんに頼んで、この家の壁にゴールもつけたんだぞ!」
言い訳をするすばるんの手を掴むと、私は引っ張って走り出した。
「ぐすっ。でも、ありがと。今から遊ぼっ!」
「え、いや……ケーキ食べるんじゃ。っていうか、歩きにくいから手を離せって」
「だーめっ。離したらまた逃げるかもしれないもん」
誕生日会を気にせず外で泥だらけで遊ぶ二人の様子を、二人の親が笑顔で見守っていた。
「七海ちゃんにはプレゼントよりも、昴が一緒に遊んでくれるだけでよかったみたいね」
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