語呂合わせのパスワード
昔、お父さんがノートパソコンを使うときに呟いていた言葉がある。何だったかは忘れたけど、痛いものだったことは覚えている。
「
数日前から続いている四桁の数字を当てる、たまこの遊び。使うのはまだ早いと言われて触ることを許されなかったもの。それが、いつでも触れる場所にあるのだ。
数年前にお父さんの使わなくなったパソコンは、小学生のたまこのおもちゃになっていた。今日は学校の図書館で痛そうな単語を何個も調べている。どれかひとつが当たるかもしれない。
何度も試していると時計確認すると、気がつけば夕飯の五分前になっていた。この遊びがお父さんにバレたら二度とパソコンに触らせてくれないかも。そう思い、たまこはキーボードを打つ手を止めてノートパソコンを閉じた。
「……今日もだめだった」
小さくため息を漏らしてそう呟き、明日こそは開けてみせるとぐっと拳を握るとこっそり倉庫を出た。リビングに行くと、ソファに座ったお父さんが難しい顔をしながら指を弄っていた。近づいてみると、お父さんの指から血が出ている。
「お父さん、絆創膏いる?」
「ああ、たまこか。ありがとう。取ってきてくれるかい?」
たまこは頷くと棚の引き出しから救急箱から絆創膏を取り出す。お父さんに持っていく直前、足元にあったものを蹴った。たまこが足元を見ると、そこには赤いボールペン。お父さんが使っているものだ。こてんと首を傾げて拾い上げると、お父さんが「あっ」と声を漏らした。
「あっ……あははっ。ささくれなんて引っ張るんじゃなかったよ」
お父さんが何かを誤魔化すように笑っているが、たまこは何かが引っかかった。
「……ささくれ?」
「そう、ささくれ。お父さんはこれ、苦手なんだよね。飛び出してると違和感があってつい触っちゃうし、引っ張るとこうやって血が出て痛くなるしさ」
ささくれ、ささくれ。何かが引っかかる。
「たまこ、どうしたんだ?」
「……っ!」
たまこは何かに気づくと小走りでリビングを出ていく。その後ろ姿を見て、お父さんは安堵した表情を浮かべていたが、たまこは気づかなかった。倉庫のノートパソコンを開くと四桁のパスワードを入力した。
「……あ。うごいた」
その日以降、たまこはお父さんには秘密のおもちゃが出来て、毎日ノートパソコンで遊んだ。そんなたまこを倉庫のドアからこっそりと見つめる影があった。
「Wi-Fiの設定は消したしデータも消去済み。せっかく興味を持ったんだ。たまこのおもちゃにはちょうどいいだろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます