第21話 離脱
フェルフリードは逃げるユナイロの背中姿を見届ける。
追いかけはしない。いや、できなかった。
今の彼に走って追いかけるほどの体力は残されていない。
フェルフリードは背を向けて逃げ出すユナイロの姿が見えなくなるまで油断は解かな
かった。
「どのみち、奴の命は短い」
そう呟きつつフェルフリードは安堵していた。
宝剣を発動させようとしていたがあれはブラフだ。
もうフェルフリードに宝剣の発動に耐える体力や精神力は残っていなかった。そもそも剣を振ること自体も怪しいぐらいだ。
騎士の一人を両断したが、あんなものは力任せに振っただけに過ぎない。
その騎士が油断をしてくれたおかげで当たったようなものだ。
そして、ユナイロも選択を誤ってくれた。
騎士を両断した後、もうフェルフリードに腰を入れて剣を振る体力はなかった。
あのまま剣戟となって、宝剣の力を使う隙がなければ負けている可能性の方が大きかった。
色々な不安な点はあったが結果は最高だと言えた。
「俺はやっとやれたんだ」
フェルフリードは充実感に満たされていた。
目の前で眠るロア・ヴィアモンテ。その頭をゆっくりと撫でる。
「俺は……やっと守ることが……」
その目に涙が溜まる。
だが、その涙をすぐに拭った。
「いや、これからだ。これからも俺は彼女を守っていく。それこそが俺の使命だ‼」
フェルフリードは今残っている脅威が何かを改めて考える。
「親父や兄貴たちに関しては俺と魔女が姿を消せば相打ちになったと思ってくれるだろう。……問題はロア殿の中の魔女の存在だ」
フェルフリードは魔女が完全に消え去ったのではないと理解していた。
ロアの身体の内側には僅かにだが魔女の気配が残っている。
そして、ロアが自害しようとしてからその気配は少しだけだが大きくなっていた。
「何とかして魔女を消滅させる方法を探さないと」
しかし、魔女の討伐記録は残っているが根本を消滅させる手段は残っていなかった。
そもそもそんなものがあればとっくの昔に魔女は滅ぼされているだろう。
フェルフリードは首を振る。
分からないことをいつまでも考えている方が時間の無駄だ。
「どれだけ時間がかかろうと必ず見つけ出してやる。……これで晴れて流浪の身か。さて、まずは安全な場所を探さないと」
フェルフリードは口笛を鳴らす。
すると、そう時間が経たず内に馬がやってきた。
馬にロアをおぶってフェルフリードは飛び乗った。そして、馬を走らせ廃墟同然の城下町の中を駆けていく。
「やはり、ユナイロたちは避難誘導を一切していない。ずっと機を伺っていたのか」
民家の中には人の気配がし、まだ息を潜めているようだ。
もしかすると、気を失っているのかもしれない。
フェルフリードは舌打ちをする。
だが、ここで彼が表立って行動すれば生きていることが伝わってしまう。ロアの身の守るためには避けなければならない。
助けを必要としている国民を見て見ぬ振りをするのは心が痛む。
「くっ……」
悔しさを滲ませるフェルフリード。
だが、そのとき何やら城下町の外が足音で騒がしくなっていた。
「何の音だ?」
フェルフリードは馬を走らせて城下町の外に出る。
すると、この都市グランドールに向かってくる軍勢の姿を確認した。
その旗印を見てフェルフリードは思わず笑みを浮かべた。
「……兄貴」
その旗印は第一王子ユリウスの物だった。
「そうか。兄貴、来てくれたのか」
現状を報告しようか迷うフェルフリード。
ユリウスなら分かってくれる。
だが、フェルフリードは首を横に振って思い留まる。
「いや、俺たちはもう死んでいるということにした方が都合がいい。ユリウス兄はいずれ王位に即く。ロア殿を匿うことで負担はかけたくない」
フェルフリードはもう一度、ユリウスの旗印を感慨深く見詰める。
「……すまない。兄貴。俺は行く」
そして、最後の挨拶を一方的に済ませたフェルフリードは馬を走らせた。
もう振り返ることはなかった。
その日、フェルフリードは表舞台から姿を消した。
こうして、フェルフリードとロアの隠遁生活が始まった。
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