第19話 真意

 フェルフリードは眠っているロアの頭を慎重に優しく地面に置く。


「ロア殿、こんなところで申し訳ございません。すぐに終わらせます。待っていてください」

 

 そして、フェルフリードは二人の騎士に向き直る。

 

 強く睨み付けたことで二人は黙ったままだった。


 しかし、フェルフリードの動きを警戒するように僅かに身動ぎする。

 

 それを見てフェルフリードは確信した。


「王子‼ 先程の言葉はいったいどういうことか⁉」

「どうもこうも、私はロア殿を守る。誰であっても傷付けることを許さない」

「そ、それは国を、国王を、そしてわが主を裏切るということですか⁉」

 

 その言葉にフェルフリードは苛つきを表に出す。

 

 明らかにその顔は怒りに染まっている。

 

 フェルフリードが信頼を置いている第一王子の前ならまだしも、それ以外の前でこんなにも感情を表に出すことは彼にとって初めてのことだ。


「ロア殿をどうすれば守ることができるのか考えていた。なるべく、親父とどう折り合いをつけるのか。だが、もううんざりだ」

「な、なにを……」


 ユナイロは動揺を隠せないでいる。


「一つ聞くが。なぜ、ここにいる?」

「は?」

「俺は命じたはずだ。民の避難をしろと。終わったのか?」

「い、いえ」

「俺の命令を破ってここまで?」

「……そ、それは魔女の気配が消えたため王子が討伐に成功したと確信して救援に」

「早すぎるな」

「は?」

「俺が魔女との戦いを終えたのはほんの少し前だ。民の誘導をしていたのならばもう少し時間が掛かる。お前たちは早すぎるんだ。まるで何かを見計らっていたような」

 

 ユナイロの顔に動揺が浮かぶ。


「そ、それは……」

 

 この期に及んでまだ言い訳を述べようとするユナイロにフェルフリードは嫌気がさして、言い逃れができない事実を突きつけた。


「第一、なぜ俺が、この状態の俺が、目覚めたと思っている?」


 フェルフリードは強調するように満身創痍のその姿を見せつける。

 

 普通に考えれば一晩は寝たきりが必然の負傷だ。


「配下の教育はしっかりとしておくべきだったな」

 

 その言葉でようやくユナイロも悟ったようだ。


「そいつが俺に向けたのは敵視だ。そして、お前たちは俺が動いたときに身動ぎした。完全に俺を敵とみなしている。大方、俺と魔女の残った方をお前たちが始末する算段だったのだろう。……さて、次はどんな言い訳をする?」

「ぐっ……ふっ、ふふふふ」

 

 目が揺らいでいたユナイロだが、突然笑いを零した。


「お見事です。さすがはフェルフリード様、素晴らしいご慧眼です」

 

 ユナイロはまるで馬鹿にするかのように拍手をしながら上辺だけの褒め言葉を送ってくる。

 

 フェルフリードはそれどころではなかった。

 

 誰が王国の自身の配下とも呼べる騎士と敵対したいと思うのか。

 

 自分を黙らせてくれるほどの疑念を晴らす理由が欲しかったのだ。だが、返ってきたのは開き直った肯定。


 自分が考え当てたことなのだが、それが真実だと確定した衝撃は凄まじかった。

 

 ユナイロの主は第二王子、フェルフリードの兄だ。つまり、フェルフリードはその兄から命が狙われている。


「やっと得心がいった。兄上がお前たちを供に付けた理由が。……魔女討伐のどさくに紛れて俺を屠るために」

 

 元々、この国では一つの大きな政治争いが起きている。

 

 第一王子ユリウスと第二王子デリーヒビの王位継承争いだ。現王は第二王子に継がせようと考えているが重臣たちは第一王子を推している。

 

 王とはいえ、重役を担う貴族たちの言い分を真っ向から撥ねのけることは難しい。


 お互いの派閥の蹴落とし合いが日常茶飯事といて行われている。表立っての対立がないおかげで今は均衡を保っているが。

 

 妾の子であるフェルフリードは継承権を持たず、中立を保っているが長兄であるユリウスとの仲は良い。


「デリーヒビ兄はそれが気に食わなかったんだな。それに俺がユリウス兄につけば騎士団も敵になることを恐れたのだろう。……もう、うんざりだ」


 フェルフリードは宝剣を強く握りしめる。

 

 それを見たユナイロと一人の騎士も構えを見せた。

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