第24話 みんなを廃墟の町へご案内することに
「それで、なぜ町の外で寝泊りしていたの?」
元々の問題に切り込むベルさん。
「その。この子と一緒にいたくて。町に一緒に入るわけにはいかないので……」
素直に話すと、ベルさんがうなった。
「うーん、それは納得するわ。むしろ黒魔術師でも、四六時中ずっと魔物を使役し続けられるのが珍しいものね」
黒魔術師の使役とか操る魔術って、そういう感じなのか。
実母と一緒に会ったことがある黒魔術師は、そこまで詳しい話をしたことはなかった。
そもそも魔物を操れるなんて想像もしなかったから。
事実を知ったせいで、ちょっと冷や汗をかく。
(どうしよう。変なことしちゃってる?)
異常なところを見つけられたら、すぐさま処刑台と思って生きていたせいだろうか。とんでもないことになるのではと、緊張が高まった。
「いないわけじゃありませんよ」
そこで口を挟んだのはラスティさんだ。
「力がある黒魔術師とか、魔物の方がよほど黒魔術師と相性が良いのであれば、度々住処に帰りながらも、何度も黒魔術師の所に戻ってくる魔物は観測されていたはずです」
「そんな話があったの?」
「噂で聞きましたね。学会で発表するまではいっていないようでしたが。なにせ希少すぎて、研究しようにもそれができる黒魔術師に会うことすら大変ですから」
「希少ならそうだろうな。世の中まだまだ不思議にあふれているもんだ」
ヨランさんが腕を組んで「うんうん」とうなずく。
(え、アールシア皇国ってそういうのを研究発表する学会があるんだ……)
私はそっちが気になってしまった。
アールシア皇国はずいぶん知識の探求に熱心な国なのかも?
ダート王国で学会といえば、歴史に関する物が多くて魔術については聞かなかった。
ディアス神教が幅を利かせていて、黒魔術以外についても論じにくかったのかもしれない。
なにせ魔力そのものが、悪の根源であるという話だったから。
とにかく私のことは、希少例だと思ってもらえたみたいだ。
追及されなくてよかった……。
まさか『黒魔術で使役してない』とか言えないもの。
こっそり感謝しつつ、ラスティさんに頭を下げると、彼が口の端を上げる。
(……。あれ、もしかして何か感づいてるような?)
そんな反応だ。
でもここで話せるものでもないので、いったん置いておく。
「でも魔物と離れたくないなら、アーダンの町に住まないのも理解できるわ。でもその野営場所、本当に大丈夫?」
野営については理解してくれた。
あとは場所か……。
どんなに言葉を尽くしても、町の外である以上は納得してくれなさそう。
ただ安全そうなら、ルカのこともあるしそっとしておいてくれるかもしれない。
それどころか、事情があるならと協力してくれる可能性まである。
……賭けてみよう。
私はそう思ったので、口を開いた。
「あの、行ってみますか? もう時間も遅いので、みなさんに野営の準備があればですけれど」
三人が考える表情になった。
「町の外……白夜の森の側だからな」
「でも、女の子が一人で平気だというんだから、間違いなく安全なのかも?」
「検証してみたいところですね。興味がありますよ」
三人で短い相談をして、彼らはうなずいた。
「食料だけ買い出してくる。それまでちょっと待っててくれ。……町から遠いのか?」
ヨランさんの問いに、私は首を横に振る。
「たぶん、町から30分ぐらいです」
「わかった」
ベルさんを置いて、ヨランさんとラスティさんが急いで町へ行く。
そして数十分で戻ってきた。
けっこう沢山買い物をして、二人のリュックの上に布袋に包まれた物がくくりつけられている。
なのにこんな短時間で戻って来るとは思わなかった。
一方の私は、その間ベルさんと他愛もない話をしていた。
ベルさんの方は、重要な話はみんなと一緒にと思ったのかもしれない。
おかげで『最近のアーダンの町の流行』を知った。
暑くなると、アーダンの町では氷魔術で広場に氷柱が作られたり、薄く削った氷が売られるようになるんだとか。
「そこに果汁を絞って食べるの。とっても美味しいわよ。せっかくアーダンの町に来たなら堪能してほしいわ」
「すっごく美味しそうです! 氷入りの飲み物は飲んでいたんですけど、氷そのものは食べたことなかったです」
「でしょう、でしょう? それにしても重ねてるスカートのレース、可愛いわ。おしゃれでとってもいい感じ。リーザの年齢に合って……って、今何歳?」
「十六です」
「成人まであと一年ねー。お酒は興味ある?」
ベルさんはお酒が大好きみたいだ。
興味があると答えたとたん、アーダンの町で主に売っている、ベルさん好みのお酒と女の子が好むお酒の話に移った。
そこへヨランさんとラスティさんが帰って来た。
「また酒の話か。ベルはうわばみだから……」
「思考力をあやふやにする品を、子供に勧めるのは感心しませんよ、ベル。生育にも悪いという論文の発表がありましたし」
「いーじゃない! 来年は成人だっていうし」
「十六歳ってことか?」
ヨランさんが思いがけないことを聞いた、という顔をした。
ラスティさんは無言で目をまたたいている。びっくりしたらしい。
「あの、だいぶ老けて見えましたか?」
未成年だと思わなかったのか、と思ったが、三人とも首を横に振る。
「十六歳って、もっと背が高くないか? だから十三歳くらいかと……」
ヨランさんが私の野営を不安視したのは、そう思ってたせいかもしれないな。
「私は白夜の森とそれに付随する知識の不足から、幼いと考えていたのですが……。背の低い大人だっているわけですから」
ラスティさんは基準が知識量だったようだ。
「私は十五歳くらいかなって思ってたわ。背丈はこんなものでしょ? ヨランの一族がでかすぎるのよ。そこを基準にしちゃだめよ。……でもあれよね、年齢より低く感じたのって育ちが良くて世慣れない雰囲気があったせいじゃないかしら?」
ベルさんの判断基準はするどい。
引きこもっていた貴族の娘なんて、世間知らずもいいところだろう。
知らないことばかりで不安そうにしていたら、幼く見えても当然だった。
「そうか来年は、ほどほどに酒を楽しもうな」
ヨランさんもお酒は嫌いじゃないようだ。もう来年の予定を話し始めている。
「まぁお付き合いはしますよ」
「ラスティはたぶん、リーザよりもすぐに酔いつぶれるわよ。私、そんな未来が見えるわ」
ベルさんの言葉に笑ってしまう。
彼女も、みんなも笑い返してくれる。
なんだかそれがとても幸せで、ほんの少し目じりに涙が浮かびそうになった。
幸せな未来の予定を誰かと話せるなんて、少し前まで想像もしなかったから。
そんな私の肩に、ルカが頭をのせる。
よかったねと言われているみたいで、心が温かくなった。
「さ、リーザの野営地にお邪魔しましょ」
ベルさんの声かけで、私達は移動を始めた。
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