第25話 決戦の日(前編)

恋音と雪子が2年生となった春高バレーは、予選の段階から、ふたりの時間差攻撃が次々に決まり、北斗高校は快進撃を続けた。マスコミも“恋雪コンビ”と称して大きく取り上げた。


恋音と雪子の活躍により、北斗高校はついにベスト4の壁を破り、決勝進出を果たした。決勝の相手は、4連覇中の黒潮南高校。


北の雄・北斗高校と、西の雄・黒潮南高校の激突となった。


黒潮南高校の監督は、早い段階から恋音と雪子のコンビを警戒していた。特に、ふたりによる時間差攻撃は他の高校では対応できず、黒潮南高校の監督は危機感を覚えていた。


徹底的な分析の末、監督は恋音の動きにわずかな癖を見つけた。それは、時間差攻撃でおとりになる場合、恋音はジャンプ前の助走の歩幅がわずかに狭くなるというものだった。実際にアタックをしないため、ジャンプの高さも必要なく、自然と助走が短くなっていたのだ。


黒潮南高校の監督は、この微妙な違いをいち早く見極め、恋音が本当にアタックに入るときには恋音に、フェイントのときには雪子にブロックを合わせる徹底した練習を行わせていた。


迎えた決勝戦、恋音も雪子も、他のメンバーも、ふたりの時間差攻撃があれば勝てると信じていた。


しかし、試合は予想外の一方的な展開となった。


恋音と雪子の時間差攻撃はまったく機能せず、ことごとくブロックに阻まれた。


セットカウントは0-2となり、後がなくなった北斗高校。崩れたリズムは戻らず、なぜ時間差攻撃が決まらないのかもわからないまま、結局セットカウント0-3で敗れた。


恋音も雪子も、チームメイトや監督も、黒潮南高校の壁の厚さを痛感し、涙すら出ず、ただ呆然とコートに立ち尽くしていた。


敗戦のショックから立ち直れない選手たちは、練習にも身が入らなかった。声を掛け合うことも減り、どこかチーム全体に重たい空気が漂っていた。


そんな中、日本一への強い思いがある恋音と雪子は、他のメンバーを鼓舞し、打倒・黒潮南高校を掲げて練習に励んでいた。


北斗高校の監督は、恋音と雪子の時間差攻撃が封じ込まれた理由に疑問を感じ、決勝戦のビデオを何度も、何度も見返していた。


そして、あることに気づいた。時間差攻撃を仕掛ける直前、黒潮南高校の前衛の選手の視線が一瞬、恋音の足元に向いていたのだ。「これだ!」と感じた監督は、さらに細かくビデオを確認した。そして、恋音がおとりになるとき、助走の歩幅がアタック時に比べてわずかに狭いことに気が付いた。


監督は早速体育館に向かい、恋音と雪子に時間差攻撃の確認を命じた。


そして、全員を集めて言った。


「恋音、お前は、時間差攻撃でおとりの時、助走の歩幅がアタック時に比べて少し狭い。黒潮南高校はそこを見抜いていたんだ」


「そうだったんだ!じゃあ、すぐに直します!」


監督はニヤリと笑った。


「いや、直さなくていい。それを逆手に取るんだ。歩幅が狭くてもアタックが打てるように、おとりの時にも助走を大きく取れ。つまり、どちらのパターンでも打てるように練習するんだ。それで黒潮南高校のブロックをかく乱する。


但し、決勝までは、今まで通りでいいからな。他の高校は気づいていない。黒潮南高校にも、こちらがまだ気づいていないと思わせておくんだ、いいな!」


監督は、この修正で黒潮南高校と互角に戦えると確信していた。しかし、心の奥では、これだけでは連戦錬磨の黒潮南高校には勝ちきれないと感じていた。


「何か、一度も見せていない必殺の攻撃が必要だ……」


そう考えた監督は、新たな戦術を用意し、選手たちに徹底的に練習させた。ただ、その必殺攻撃には条件をつけた。


「いいか。この攻撃は決勝戦でマッチポイントを迎えたときだけに使う。それまでは、どんなにピンチでも絶対に出すな!」


監督の言葉には、誰にも言えない秘密の決意が込められていた。


こうして、3年の春高バレーまで、チーム一丸となり打倒・黒潮南高校に向けて練習に励んだ。


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