第11話 10年越しのキスと、まだ終わらない物語
静かに時は流れ、玲子と結婚して10年が過ぎていた。
ある平日の昼間、カイのスマホに、懐かしいトーク通知が届いた。
陽菜からだった。
「元気ですか?突然連絡してごめんね。カイはきっと、誰かと幸せにしてるんだろうなって思ってたから、本当は連絡しちゃいけないって分かってるの。でも……怒らないで。私、子どもが幼稚園に通うようになって、少しだけ一人の時間が持てるようになったの。もし許されるなら……ほんの少しでいいから、会えないかな」
カイもまた、この10年、陽菜を忘れた日は一日たりともなかった。
カイは、しばらく画面を見つめたあと、そっと指を動かした。
「俺も会いたい」
ふたりは時間を調整し、平日の午前中、昔、ふたりで訪れた思い出の遊園地で再会することにした。
その遊園地は、まだ付き合い始めたばかりの頃、陽菜がはしゃいで最初からジェットコースターに2回続けて乗ったことでカイがすっかり酔ってしまい、他の乗り物には何ひとつ乗らずに帰ることになった――カイが乗り物に弱いことを発見した、思い出の場所だった。
10年ぶりの再会だった。
話したいことは山ほどあったが、限られた時間の中で、どこから話せばいいのかさえ分からなかった。
遊園地の入り口で、陽菜がカイを見つけ、思わず声をあげた。
「カイ~、えっ……カイ、全然変わってないじゃない……ずるいよぉ……私だけ、おばさんになっちゃった……」
「そんなことない。陽菜も……あの時のままだよ」
自然と手をつなぎ遊園地を歩くふたり。
まるで10年の時間が逆戻りしたかのように、そこには変わらないふたりがいた。
ふたりの目に観覧車が飛び込んできた。昔は乗れなかった観覧車。
ふたりは自然にその前へ足を運び、乗ることにした。
目的は、ふたりとも同じだった。
観覧車の頂上には、他の誰にも見られない、完全なプライベートな時間がほんの数秒だけ訪れる。
それが、ふたりの目的だった。
観覧車の中で、向かい合わせに座ろうとする陽菜に、
「こっちにおいで」
と、カイは優しく声をかけ、隣に座るよう促した。
頂上に着くまでは、手をつなぎながら、たわいもない話をしていた。
しかし、頂上が近づくにつれ、ふたりは黙り込み、手を握る力が次第に強くなっていった。
そして頂上に達したとき、ふたりは自然に唇を重ねた。
もっと強く抱きしめ、激しくキスを交わしたい衝動に駆られたが、頂上の時間はあっという間に過ぎた。
名残惜しそうに唇は離れた。
観覧車を降り、しばらく園内を歩いたふたりだったが、
気づけば再び観覧車の方向へと足を向けていた。
2回目の観覧車、いい大人が続けて観覧車に乗るなんてと、ふたりは観覧車の前の職員に少しバツが悪くて、俯きがちだった。
2回目も頂上でキスを交わした。今度は、すぐに激しいキスとなった。
思わず陽菜は、
「あん……」
と声をもらしてしまった。
カイと付き合っていた頃のキスでも、声を出したことなどなかった陽菜。
その声を聞いたカイは、より一層、陽菜を愛おしく感じた。
2回目の観覧車も、あっという間に終わってしまった。
「さっきより速くない?……気のせい?」と、ふたりは顔を見合わせて疑った。
会える時間は、刻々と過ぎていった。
遊園地のベンチに腰かけ、陽菜はカイにもたれかかる。
カイは、小さく呟いた。
「このまま、時間が止まればいいのに」
陽菜も、そっと目を閉じて思う。
(私も……時間が止まればいいって、本気で思った)
しばらくの沈黙のあと、陽菜がぽつりと話し始めた。
「私ね、主人とするのが辛いの。でもある時ふと思ったの。“カイのことを思っていればいい”って。それからは……心の中で、カイに抱かれてるって思ってるの」
あまりに意外な言葉に、カイは息をのんだ。陽菜の口から、そんな告白が飛び出すなんて思ってもいなかった。
「俺も……毎回じゃないけど、陽菜のことを思ってしたことがあるよ」
「本当に?……なんか、嬉しい……」
夢のような時間は、終わりを告げた。
ふたりは、ゆっくりと立ち上がり、それぞれの現実へと戻っていった。
数日後、カイは、悩んだ末ある決断をする。
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