第5話-4
「やべっ。忘れてた」
夕飯を食べ終えて風呂にも入り、あとは部屋でのんびりくつろいでいた時にふと思い出してしまった。
時計を見るとまだ夜の九時を過ぎたばかり、これが10時を超えていたら流石に明日でもいいかとなるが、この時間ならばまだ間に合ってしまう。
「はぁ、めんどくせぇ」
祐は電話をするか直前まで迷ったが、先延ばしにするのは流石にまずいと思い覚悟を決めて電話をかけた。
時間も時間だし出ない可能性もあったが、期待に反して相手はすぐに出てしまった。
「あ、もしもし。俺だけど」
「祐!? あんたね。いつも言ってるでしょ! もっとマメに連絡をしなさいって!」
開口一番、うるさく言われて辟易する。だから電話したくないんだと言えば更にうるさくなるので言わないが。
「あー。分かった。次からは気を付ける。それで用事って何?」
「特に用事は無いわよ」
「用事ないのに伝言頼んだの?」
「用事なくても電話していいじゃない。家族なんだし。祐が無事か心配してるのよ」
「配信見てるんでしょ? なら無事だって分かってるじゃん」
「それはそれ。直接声を聴いて安心させてちょうだいよ。お父さんもお母さんも心配してるんだからね。電話が無理ならせめてメールでも送りなさい!」
「分かった。メール入れとくよ。それじゃ」
「待ちなさい。もう切るの?」
「だって用事は無いんでしょ? 俺も無事だって分かったし」
「そういうんじゃないでしょうが! 全く。あんたって子は、昔っからいつもそう」
「あー。はいはい。分かったから」
長くなりそうなので無理やり終わらせる。
「あんたねぇ・・・はぁ、まぁいいわ。今度会った時にみっちり言って聞かせてあげるから。それで? 最近の調子はどう?」
「調子? うん、まあまあかな。姉さんたちは?」
「私も、お父さんもお母さんも元気にしてるわよ。配信もハラハラしながら見てる」
「そっちの方はとりあえずは大丈夫だから」
「分かった。祐が元気にしてるならそれでいい。それから配信で思い出したんだけど、光くんは大丈夫? ネットとかで結構、言われてたけど」
「あーうん。それも大丈夫。言いたい奴には言わせておけばいいから。光も全然、気にしてないし」
「そう? それならいいのだけれど」
簡単に説明しただけなので不安が拭いきれないようだ。
「それに関しては本当に心配いらないよ。もうちょっとかかるけど、準備が出来たらまた配信するから。今度は下層に向けて挑むつもり」
「下層!? あんたたち下層に行こうとしてるの!?」
「あ、やべっ!」
この情報はまだ公にはしていない情報だった。
勝が言いだした段階では能力不足が目立っていたため、5人が反対していたが、光の能力が覚醒したことで下層進出が、ゲートキーパーとの戦いが現実味を帯びて来た。そうなって来るとチームの目標として密かに設定したのだ。
ただ現状では絶対に止められるのでこの情報は極秘だったのだが、祐がうっかり口を滑らせてしまった。
「分かってるの!? ニュースで言ってるけど、下層探索は毎年、何十人も、多い時は何百人も死んでるのよ!」
「分かってるって」
「分かってない! 配信を見るたびに皆、今日も無事でありますようにって祈りながら見てるこっちの気持ちも!」
「それは・・・ごめん」
素直に謝った。祐が家に電話をしたくなかった一番の理由が、自分を心配してくれるから。過保護ではないのだが、自分を心配してくれる気持ちや言葉を真っすぐ言ってくれる。それが祐には辛かった。
同時にもう少し信頼してくれてもいいんじゃないかとも思いイライラもしている。だが割合で言えばイライラが少なくてその気持ちを伝えることは無い。
「ねぇ。今のままじゃ駄目なの? 中層でも十分な成果じゃない」
「確かに中層の攻略は安定しているよ。でも・・・俺たちはまだ上を目指せるって分かったんだ。だから・・・挑戦したいんだ」
「挑戦って・・・。それで死んだら元も子もないのよ! そのへん分かってるの!?」
「分かってるよ。だから今、皆で鍛えなおししてるんじゃないか」
「鍛えてもどうにもならない事だってあるじゃない」
「やってみなくちゃ分からないじゃないか! もういいだろ! 自分で決めた事なんだ。とやかく言わないでくれ!」
さすがに我慢できなくなって言い返してしまった。僅かな罪悪感が胸をチクリと刺すが、ここで折れる訳にはいかない。必死に努力している仲間のためにも。
「とにかく! 俺たちは大丈夫だから。それじゃ・・・」
「待って!」
強引に電話を切ろうとするが、つい戸惑ってしまった。
「祐の気持ちは分かったわ。納得はしてないけどね。
それから聞いたのだけれど、勝くんが新しい武器を買うためにご両親からお金を借りたって。祐はどうなの? 新しい武器とか必要ないの?」
「その辺はまだ考え中」
「そう。もしお金が必要だったら遠慮なく言いなさいね。お金なんかより祐の命の方が大切なのだから」
「分かった。・・・いろいろと心配してくれてありがとう。こっちは大丈夫だから」
「うん」
電話の向こうの声が意気消沈しているのが分かる。だが祐は何を言わずに電話を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます