〔ある日の放課後・街角〕


 夕方の駅前、カナメとユイが並んで歩いていると、不意に一人の老人が近づいてきた。


「……おや、おやまあ……ユカかい?ほんとに帰ってきてくれたのか……」


 杖をついた痩せた体。よれた帽子。顔には深いしわ。

 老人はユイの顔をじっと見つめ、ぽろぽろと涙を流し始めた。


 カナメが思わず一歩踏み出して前に出る。「あの、どこかお具合でも……?」


「いいんじゃ、いいんじゃ……この子は……わしの孫に、そっくりなんじゃ……」


 周囲の通行人がチラチラとこちらを見始める。

 カナメは戸惑いながらも、「これはまずいかも」と直感する。


「名前も……よう似とる……あの子は、やさしい子でのう……」


 ユイは何も言わず、ただ聞いている。


 老人の話は断片的だった。

「運動会で、転んで泣いて……」「わしが握ったおにぎりだけは残して……」

 時間も、事実も、曖昧なまま。


 ユイは、そっとポケットから飴を取り出し、老人の手に乗せた。


「……ああ……ユカ……やっぱり、おまえなんじゃな……」


 カナメは完全にしんみりモードに入っていた。

(ユイちゃん……この人に最後の思い出を……なんて優しい……)


 と、そのときだった。


「じーちゃーん!!!」


 突如、遠くから甲高い声が響いた。

 制服姿の女子高生が駆け寄ってくる。ポニーテールにリュック、めっちゃ元気。


「また勝手に出てく!スマホも持ってないし、マジ心配したんだけど!?てかその子誰!?誘拐!?え、違う?」


 カナメ「……ん?」


 老人「……ユカ?」


 女子高生「そーだよ!生きてますけど!?てかまだ10代ですけど!?泣くのおかしくない!?なんで違う子で感動してんの!?」


 カナメ「生きてた……!?」


 ユイは、いつも通りの無表情で飴をなめていた。


 女子高生はジト目でカナメをにらみ、「なんでこの子だけ感動的な空気出してんの!?あたしのこともっと大事にしてよ、じーちゃん!!」とツッコミを入れる。


「……やれやれ。ワシ、またやらかしたかのう……」


 女子高生は老人の手を引きつつ、「ありがとうございましたー!変なとこ連れてかれてたら通報してたわ!」と笑いながら去っていった。


 カナメはしばらくぼーっとしていたが、やがてぽつりとつぶやいた。


「……なんだったんだ、あれ……感動、返して……」


 ユイは無言で、飴の包みをそっとポケットに戻した。


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