お給料、売却値段から1%

「善吉、貴方が回収した禍遺物の話だけれど」


そう言いながら、呉白蘭が軽く手を振るうと、何時の間にか火が点いた煙管を手にしている。

それを唇で噛む様にしながら喫うと、甘い香りを放つ紫煙を吐き出した。


「ああ、あのオッサンが持ってた片手斧だろ?」


幽谷轟鬼との戦闘で手放した片手斧の禍遺物。

膂力から発生する物理的攻撃力を斬撃に変換する能力。

その代わり、全身から重さと言う概念が無くなってしまう代物。

正直、無悪善吉は売れるかどうか疑惑だったのだが。


「推定売却の通りに、即決で売れたわ、だからお金を渡そうと思って」


「金?俺も金、貰えるのか?」


無悪善吉は意外だと思った。

基本的に彼は借金を背負っている身である。

回収した禍遺物は全て店主である呉白蘭のモノになると思っていたからだ。


「曲りなりにも、君は私の下で働く従業員、仕事の成果はきちんと御金で払うわ」


呉白蘭はもう片方の手で空を指で払う。

すると、空間から裂け目が現れる、異次元の穴からは、複数の目が現実世界を覗いていた。

これもまた、何かしらの禍遺物による効果なのだろうか、と無悪善吉は思った。


「まあ、ありがてぇ事だぜ、一万か二万くらいか?」


謝礼金等で支払われる金一封くらいだと無悪善吉は思った。

呉白蘭は異次元の境目に手を突っ込んで、ぐちゃぐちゃと何かを探している様子だった。


「基本的に、うちの方針は半分が私の懐で、もう半分は借金の返済、お給料は売却した値段の1%って感じね、お給料の方は私の懐から出るから安心して頂戴」


と、呉白蘭は言った。

無悪善吉は簡単に計算を行う。


(つまりぃ……あの片手斧が百万で売れたら、五十万がババアに、もう五十万が俺の借金、で、売却した値段、だから百万か、其処から1%……って事は、一万か、どうせなら、一割くらいくれりゃ良いのによ)


その内容に不満を持つ無悪善吉に対して、呉白蘭は異次元の境目から取り出した現金を無悪善吉に渡した。


「取り敢えず、報酬は三百万ね」


ぽんと、無悪善吉に渡される現金、一万円の札束が三つ。

それを受け取った無悪善吉は、硬直していた。


「あの片手斧、かなり等級が高かったわ、三億で売れたのよ?残りの一億五千万は君の借金の返済、三億の1%だから、三百万を君に……あら?」


大金を両手で掴んだまま、無悪善吉は目を丸くしていた。

隣に居た竜ヶ峰リゥユが、無悪善吉の視界の前に手を伸ばして軽く振る。


「あ、気絶してる」


無悪善吉。

返済額:1億5000万。

借金残:98億5000万。





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