ゆめ?
多分これは登校中の道だ。
俺は忘れっぽい。
…毎日、俺は何かを忘れてしまう。
「おはよう、
蒼空…俺の親友の声がして振り返るとそこには、頭から血を流した彼女が立っていた。
「え?」
どうして?なんで、なにがあった?
「?…あー、そうそう、地面に頭、ぶつけちゃってさあ」
蒼空は苦笑いを浮かべていた。
それどころじゃないほどの大怪我に見える。少し、頭がへこんでいる気もするし…。
「とと、と、とりあえず、だ、大丈…」
心配してる場合か?
それ以前に、やることがあるだろ、俺。
「ぁあ、いや救急車!呼ばな」
そう言いかけた途端、蒼空は左手で俺の口を塞いだ。
「…そんな事できる状態だったっけ?」
え?
あ。
……あぁ、そうそう。
そうだった。一緒に落ちたんだった。
落ちて、死んだんだった!
「あはは、また、忘れてるじゃん、誠人」
蒼空はそう笑う。
イタズラっぽく、不敵に。
「あははは!」
笑みとともに、無駄に明るい声がこぼれる。
「…なんで嬉しそうなのお?君は」
「いや、…ふふ」
正直、嬉しいんだ。
やっと死ねたんだから。
生きにくい世界だった。それに、蒼空がいなければ今ごろ死んでいたんだから。
俺にとって蒼空は生きる意味で、理由で、蒼空が俺の人生だ。
蒼空がいなければきっとすぐに、生きることも忘れて死ぬ運命だったんだ。俺は。
でも、蒼空は、俺と一緒に行ってくれた。
俺達は心中をしたわけだ。
「大好きな蒼空と死ねるなんてさ、幸福だよ」
血だらけの蒼空の顔を眺めて、俺は笑った。
空色の瞳が俺を映していた。どこかボロボロで、片目が潰れていて、俺自身も血だらけだった。
俺も一緒に落ちたのだから、そうだろう。
廃ビルの屋上だった。六階建ての。
そこから落ちたんだから。
「そんな幸福をかみしめている君に、残念なお知らせがあるんだけどさあ」
…残念なお知らせ?
まだ、蒼空は生きている、とか?
それだったら残念だ。一緒に死んだと思っていたから。
「君は生きてるんだよ?」
「…は?」
「君の命は、鼓動を続けているよ。ほら、胸に手を当てて?」
蒼空の華奢な左手が、俺の右手首を掴んだ。
冷たかった。
俺の右手が、自身の胸に触れた。
あったかい、や。
振動が伝わってくる。
私は生きていると。
…どうして。
嫌だ。
生きたくなんて、無い。
死にたかったんだ。だって、世界は僕に優しくなんてない。
いつも蔑まれて嘲られるのだから。
病気とかいってひとくくりに縛り付けるんだ。
それで、可哀想だ、滑稽だと、同情を張り付けている自分が大好きなだけの人間に弄ばれるだけなんだ。
「そんなの、嘘だ。俺は死んだんじゃないの?蒼空と、落ちたのに」
嫌だよ。俺は元々、生まれてこなきゃよかった、と、さえ思っていた。
「…僕が下敷きになったじゃない」
蒼空は目を細めていた。
嗤ってるように見えて、怖くなった。
蒼空も、俺を否定するの?
やめてよ、やめて、やめてよ、こわいよ。
たすけて、そら
蒼空はそんな言葉、聞いていないみたいだった。
「ほら、もう起きる時間だよ、誠人。君には、椿が待ってる」
そう言って蒼空は、嗤った顔のまま、手を振った。
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