プロローグ②

 ……ん……?


 次に意識が戻った時、俺は真っ白で、やけに温かい光に満ちた空間にいた。


 なんだここ? 天国か? それにしては、体が軽いというか……体がない?


 自身の手や体が、青白く透けていることは変わる。

 まさか、霊体ってやつ?


 辺りを見渡すと、すぐ近くにとんでもないレベルの美人が立っていた。

 プラチナブロンドの輝く髪、雪のように白い肌、黄金比率もかくやという完璧な顔立ち。

 背中には純白の翼まで生えていて、神々しいオーラを放っている。


 天使…? いや、すっごい美人。


 なんて、暢気に見惚れていた俺だが、次の瞬間、その美人の口から飛び出した言葉に度肝を抜かれた。


「ど、どうしましょう!? わ、私の使い魔が、人間の方と衝突して……! しかも、とてつもないプラスエネルギーに引かれたとはいえ、まさか打ち所が悪くて亡くなってしまうなんて……!」


 めちゃくちゃ慌ててる!?


 この世のものとは思えない美女が、完全にパニクってるじゃないか! 

 しかも、俺が死んだのって、こいつの使い魔のせい!?


「このままでは魂が浄化されて、輪廻の輪に……! それだけは阻止しないと……! せめて魂だけでも保護しなければ……ええい、もう仕方ありません!」


 え、浄化? 保護? 何を言って……?


 俺が状況を飲み込めずにいると、その美人は何事か呪文を唱え始めたら、彼女の手元に光り輝く青い鳥が現れた。


 なんか、さっき俺にぶつかってきたやつに似てるような……?

 いや、今はそれどころじゃない!


 次の瞬間、俺の腕が、その美人にぐいっと力強く掴まれた!

 そして、有無を言わさず、あの青い鳥の体に押し当てられる。


 え、待っ……うおおおぉぉぉぉぉぉっ!


 青い鳥の体よりも遥かに大きいはずの俺の霊体は、青い鳥の中へと吸い込まれていく。


「これで一時的には保護できるでしょう……! 残りは後でなんとか……!」


 おい、待て! 待ってください…! なんでもしますか――


 俺の意識は、再びブラックアウトした。


▽▽▽


「ンピィィイ……」


 うめくような小鳥のさえずりが聞こえる。

 体を起こそうとして、激しい違和感に襲われる。


 視界が低い。異常に低い。


 自分の手を見ようとして――そこに手がないことに気づく。

 代わりにあったのは、青い羽根に覆われた小さな翼だった。


「……ピィ?(……は?)」


 声を出そうとしても、口から漏れるのは「ピヨピヨ」という、か細く情けない鳴き声だけ。


 嘘だろ? まさか、いや、そんなはずは……


 夢だ、きっと夢に違いない。

 震える翼を動かし、すぐそばにあった窓ガラスに自分の姿を映してみる。


 そこには、クリクリとした黒い瞳で、額に小粒の宝石が付いた小さな青い鳥がいた。


「……ピイィィィィッ!?」


 声にならない絶叫が、鳥の小さな脳に木霊する。


 鳥!? なんでだよ! あの女、何をしてくれたんだ!

 俺の大金が! 自由な生活が! 俺の輝かしい未来がああぁぁぁ!!


 俺は、その場で翼を意味もなくバタつかせた。

 現実を受け止めきれず、ただただ絶望するしかなかった。


 ちくしょう!

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