幸せの青い鳥は、魔法少女のヒモになりたい

久里旗ルイ

プロローグ①

「あー、だるぅ……。マジで働きたくない……」


 俺こと羽鳥 蒼人はとり あおひと、現在無職のアラサー。


 仕事? サラリーマンだったけど、なんか色々と疲れて先月退職した。

 今は再就職先を探しているフェーズだが、1か月……いや2か月ぐらいは、ダラダラ過ごしてもいいんじゃないかなと考えている。


 そんな感じでだらけ続けてもう1週間が経つ。


 古びた安アパートの一室、今日も今日とてフローリングに直敷きされた万年床の上でスマホを惰性でスワイプしながら、俺は切実に願っていた。


 誰か俺を養ってくれないかなぁ……と。


 まあ、いきなり最高目標がヒモなのはハードルが高いから、まずは働かずとも食っていけるだけの不労所得が欲しい、というのが現実的なラインだろうか。


 傍らには昨日の夕飯だったコンビニ弁当の空き容器が、その存在を主張している。


 お世辞にも文化的とは言えない生活だとは自覚してる。

 してるけど、動きたくないものは動きたくないのだ。


 そんな怠惰な俺にも、一攫千金の夢くらいはある。

 机の上に置きっぱなしにしていた数枚の紙切れ。


 ――そう、宝くじだ。


 まあ、どうせ当たってないだろうけど。


「一応、確認だけしとくか」


 スマホで当選番号を表示させ、怠惰な体に鞭打って番号を一つ一つ照合していく。


「……ん? 6等……3000円か」


 まあ、これで次の宝くじ代は確保できた。

 いつもは、これでおしまいとなるのだが……。


「……4等、5万円……3等、100万……2等、1000万……」


 え? ちょっとまって?


 手が、勝手に震え始めた。

 心臓がドクン、ドクン、とやけに大きな音を立てている。


「……まさか、な?」


 だが、そのまさかが起こってしまう。


「……い、1等…………さん、おく……えん…………?」


 ――当たってた。


 前後賞を合わせれば、更に貰える。

 具体的な数字は、脳が沸騰しすぎて霞んで見えた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」


 気づけば俺は、アパートの薄い壁が震えるほどの雄叫びを上げていた。

 床をゴロゴロと転げまわり、意味もなく天井に向かってガッツポーズを繰り返す。


 ドンドンドンッ!


 あ、隣人Aさん、ゴメンね?

 でも、今日だけは許してちょ☆


 笑いが止まらない。涙も出てきた。


「やった! やったぞ! これで一生働かなくていい! 自由気ままな生活のスタートだああぁぁ!!」


 そうだ、もう働く必要なんてない!

 これからは優雅な毎日が俺を待っている!

 美人メイドさんでも雇って、家事も全部やってもらって、俺はただソファでふんぞり返ってればいい!最高!


「祝杯だ! 今すぐ祝杯をあげよう!」


 俺は財布だけをひっつかむと、玄関のドアを蹴破らんばかりの勢いで外へと飛び出した。


 頭の中は、これから始まる輝かしい夢の生活への妄想でいっぱいだ。


 高級マンション、高級外車、そして俺を甘やかしてくれる美人メイドたち……ぐへへ。


 この時の俺は、幸せの絶頂に達しており、完全に浮かれていた。


 完全に油断していた。


 道の真ん中に飛び出した俺の視界の隅で、何かがキラリと、青く光ったような気がした。


 ドンッ!


 強い衝撃。

 何かにぶつかった? 鳥か?


 体がふわりと宙に浮く感覚。

 スローモーションのように景色が流れる。


 ゴスッ!


 その後、後頭部がアスファルトか何かにぶつかったような、鈍い衝撃が遅れてやってきた。


 視界が急速に暗転して、意識が遠のく。


 ……え…? なん……で……?

 ……俺の……自由な生活……は?


 それが、俺こと羽鳥 蒼人はとり あおひとの、あまりにも呆気ない人生の最後だった。

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