第2話 秩序国家

砂煙の向こう、城壁に囲まれた町が見えた。




ノアは、無言で歩を進める。




門前。


兵士たちが、通行人を一列に並ばせ、


身なりをチェックしている。




一人、少年が立ち止まった。


帽子を忘れたらしい。




「規則違反。拘束する。」




兵士が、少年を押さえつける。


抵抗する間もなく、腕をねじられた。




ノアは、無言で見つめた。




右手のキューブに、


軽く触れる。




カチリ。




耳に届かぬ音が、空間を震わせた。




次の瞬間。




町中を覆っていた”制御網”が歪み、


命令系統がぐらつく。




兵士たちの動きが、一瞬だけ止まった。




少年は、手を離され、呆然と立ち尽くす。




ノアは何も言わず、


外套を揺らしながら、歩き出した。




すれ違う人々が、ざわざわと何かを囁く。




「……緩めておいた。」




誰に向けるでもなく、


ただ、空気に溶かすように呟いた。




町は、知らぬ間に、自由を取り戻していた。

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