精霊と供物


 精霊と供物


 むかしむかしあるところに、ありがたい精霊がおりました。

 精霊は供物とひきかえに、人々の願いを叶えておりました。


 その年とれた穀物。豊かな山海の恵み。

 きらびやかな工芸品。村一番の美女。


 供物をささげられた精霊は、人々の望むまま、雨を降らせ、まるまる太った獣を呼び、迷子の子を探し当てました。

 人々は、もっともっと願いを叶えてほしいと思いました。

 しかし、ありきたりな供物では、ありきたりな望みしか叶えられません。

 そこで人々は、これまでにない願いを叶えるため、これまでにない供物を捧げることにしました。


 いかり、かなしみ、ねたみ、そねみ。

 人々の頭の上に、宝石の雨が降りました。


 よろこび、にくしみ、くるしみ、うれい。

 川に金の魚が泳ぎ、山に金の実が成りました。


 人々はしあわせになりました。

 もっと望みを叶えたくて、人々はさびしさを捧げました。

 すると精霊は砕け散り、望みを叶える力を失いました。


 砕けたあとに残ったのは、ネズミのようなイヌのような、弱く力ないけものでした。

 そのけものを、なでるものがいました。かつて捧げられた、村一番の美女でした。

「あめ」

 とけものは言いました。もうなんの雨も降りませんでした。


 この言い伝えによると、かつて精霊であったけものが、すまむるの祖先であるということです。


 すまむる、すまむる。

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