第25話
「火を起こす所まではやりましたが、皆さん、何か食べたい物はありますか?」
「たまには、魚料理が食べたいわね」
「いいですね。では、ムニエルにするか、それともキャンプらしく串に刺した魚を焚火で塩焼きにする食べ方、他にも色々ありますよ」
「フレイはどう思う?」
「魚の、塩焼きかな」
キャンプをして魚料理となれば多くの人が塩焼きを選ぶ。
雰囲気に流されるフレイさんで色々と妄想してしまう。
「かしこまりました。それに合うライス、そして野菜スープを作りましょう」
ライスは米が細長いタイプなので東方にあるライスと調理方法が違う。
沸騰したお湯にライスを入れて乾燥パスタのように湯でる。
その間に野菜スープを作っていく。
魚を出して塩を振り串を刺して皆さんの側で焼けるように渡す。
「自由に焼いて食べましょう」
ゆで上げたライスをザルに空けて鍋に戻し少し火にかけて水気を飛ばす。
蓋をして10分蒸らせば出来上がりだ。
「後10分でライスも出来ます」
「本当に手際がいいわね」
「クラフの料理も参考にしていますよ」
「お魚いい匂い、おいひいれすう」
「……美味しいわ」
「ありがとうございます。その言葉はフレイさんの口からあふれ出る雫のように私の心を潤してくれます」
「それただのよだれでしょ!」
「ええ、あの時、フレイさんは薄暗い部屋で頬を染め、体液を浴びながら口からあふれ出る雫」
「やめなさい」
「フレイ、お魚が無くなるわよ」
「いえいえ、こんな事もあろうかとたくさんのお魚ストックをご用意しています」
「お腹いっぱい食べたら動けなくなるわ」
「そうですか、ダンジョンでは自分が出来る事を何でもやる方がいい、分かります!」
「きゅ、急に何なの?」
「命がかかっていますからね。分かります。少し早いですがライスも食べましょう」
「ありがとう」
フレイさんが私の作った食事を食べる様子を笑顔のまま見つめる。
フレイさんが私の作った食事を食べる。
フレイさんが私を食べる、ベッドの上で。
いえ、フレイさんがベッドの上で私に食べられる、それもいい。
「あんまり……見つめないでよ」
「いい」
「え?」
「いえ、つい見入ってしまいました。私も食べるとしましょう」
「……ええ、そうしましょう」
フレイさんが私に食べるよう促す。
それもまた、妄想が止まらない。
しかし、妄想で気を逸らさなければ、私の中の本能を止められない。
「シンシさんはどうして何でも出来るんですか?」
「……そう、ですね。また、昔の事を思いだしてしまいます」
「また、遠い目をしました」
「ええ、そっとしておきましょう。何か想いがあるみたいだし」
私は昔の事を思い出していた。
初恋のお姉さんには良くして貰った。
飛ぶお姉さんのパンツが降りてくる。
「頑張ってるわね」
「うん、頑張ってる」
「パンとお菓子、それとお水もあるわ、食べる?」
「うん」
お姉さんに貰った食事を受け取りながら2人前を向いて草原に座る。
僕はお姉さんの胸、そして太ももを見ながらパンをもきゅもきゅと食べる。
「ねえ、グラン、意地悪を言うつもりは無いわ。そのつもりで聞いてね?」
「うん」
「グランってお姉ちゃんの胸や太ももをよく見ているわよね?」
「うん」
「グランはまだ子供だからいいわ。でもね、大人になって女の人をじろじろ見てしまうと嫌われるわ」
「そう、なの?」
「そうよ、だから治した方がいいと思うの。紳士を目指しましょう」
「……そっかあ、でも、どうやって紳士を覚えればいいのかな?」
お姉さんが立ち上がるとひらりとスカートが舞う。
パンツが少しだけ見えた。
そしてお姉さんが手を差し出す。
「ダンジョンの外に、街に行きましょう」
2人でダンジョンの外に出た。
そしてお姉さんにおんぶして貰い空を飛んだ。
「凄い(お姉さんの体が)」
「空を飛ぶのは初めて?」
「うん」
「あ、あそこよ、あの白髪交じりのおじさん、あの人は執事よ」
執事さんが胸に手を当てて馬車から出てくるご主人様に礼をして手を差し出す。
「……執事」
「そう、紳士な執事、まではいかなくても、あの礼儀はお勉強になるわ」
「お姉ちゃん、僕が執事みたいになったら嬉しい?」
「ふふふ、嬉しいわ」
「僕頑張るよ!」
「ええ、無理をしない程度にね」
その日から僕は頑張った。
午前は3時間の苦しい訓練。
午後は無償で執事さんの見習いを続けた。
訓練で体が痛い。
笑顔がぎこちなくなると執事のおじさんがすぐに注意する。
「グラン、ご主人様の前ではどんなに体が痛くても笑顔でいましょう」
「はい!」
お姉さんのスカートに目が行くとすぐに注意される。
「グラン、女性のスカートをじろじろ見てはいけません」
「はい!」
何度も何度も注意を受け、指導をして貰った。
『グラン、腰を曲げない』
『グラン、胸を見ない』
『グラン、余計な事は言わない』
『グラン、お尻を目で追わない』
私は執事の方に礼儀を教えて貰った。
執事さんのご主人様と奥様、2人に可愛がって貰った。
今思えば幼い私が紳士になりたいと言って執事見習いになり女性を目で追うその様子は滑稽だっただろう。
でも、私の癖を面白がってくれたおかげで国がどう動いているのかを教えて貰った。
シェフの技も磨いた。
本をたくさん読んだ。
大きくなった時に備えて万全を目指した。
収納魔法を覚え、そしてダンジョンで、魚・きのこ・肉・果実・山菜、何でも集めた。
知識を磨いた。
冒険者としての強さを高めた。
そんなある時、初恋のお姉さんがダンジョンから帰ってこなかった。
よくある事だ。
冒険者がお姉さんを探してくれた。
それでも見つからなかった。
それは、死を意味していた。
でも私は、その死を受け入れる事が出来なかった。
私はその死を無かった事にしてお姉さんを何度も探しに行った。
訓練を受けて強くなり、学園に通うようになり、それでも時間があればお姉さんを探した。
そして魔眼を習得し、魔眼で見た魔法や技術は1回で習得できるようになった。
私は幻想の中を生きていた。
そして強くなった。
しかし、溢れ出るエロスだけは、抑える事が出来なかった。
剣聖のスラッシュさんは剣聖と呼ばれる前から私を変態紳士と呼ぶ。
みんなが私をシンシと呼ぶようになった。
そしてシーフマスターのフライシャドーさんや剣聖のスラッシュさんと一緒にダンジョンに行くようになった。
そして私は、
賢者になっていた。
◇
ぼんやりと焚火の炎を見つめてゆっくりと言葉にしていく。
「昔、初恋のお姉さんがいました。私はそのお姉さんに少しでも気に入られたくて背伸びをしました。頑張っていると不思議と助けてくれる方が現れます。色んな方が、色々と教えてくれました。ですが本当は、そのお姉さんが私を異性として好きではない事に気づいていました。私はその時は小さな子供でしたから。ですが私はその事実を見なかった事にして背伸びをし続けました」
「いい、話ね」
「ええ、ある日その姉さんがダンジョンから帰ってこなかったのです」
「え?」
「はい、想像の通りです。冒険者が探してくれて、それでもそのお姉さんを見つけられませんでした。そして、私はその死を幻想で覆い隠して力を磨きつつ探し続けました。何でも出来るようになった理由、それは私が現実を見る事が出来なかったからです。私は幻想の中で強くなりました」
「シンシ、変な事聞いてごめん」
「いえ、いいんです。話をして少し考えがまとまりました」
「私、シンシの事を誤解していたわ」
「ははは、私は不器用で、繊細な部分があります。その繊細さを覆い隠すように紳士、いえ、変態紳士の仮面を被っているのかもしれません」
フレイさんと目が合う。
フレイさんは顔を赤らめて目を逸らした。
その姿に私の妄想が止まらない。
私は自分の中に湧き上がる妄想を中断するように手を叩いた。
「さあ、片付けてダンジョンに行きましょう。先輩が私を助けてくれたように、次は皆さんを助けます。全力で思いっきり戦いましょう」
「「はい!」」
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