第8話

 次の日、私は食堂を訪れた。

 パーティー白い雪玉が食事をする時間帯は把握している。

 3人がいつもの席で話をしている。

 後ろから近づく。


「シンシじゃなくて賢者グランロードに教えて貰いたいわ」

「気持ちは分かるわ。でもシンシも優秀よ。フレイはこの短期間で強くなったわ。そこは認めるわよね?」

「それは、そこは、感謝してるわ」


「シンシさんがいなければいい狩場を教えて貰えませんでした。金策を教えてくれたのもシンシさんです。シンシさんは変わってはいますが嘘はつきません。信用のあるシンシさんの紹介のおかげで私達パーティーは余裕のある生活を送れています」


「それは分かるのよ、でも、なんか認めたくないのよ。当然感謝している部分はあるわ」

「ありがとうございます」

「ひい!」


 フレイさんの横に椅子を近づけて座った。


「あ、あんた、どこまで聞いてたのよ?」

「どこまで、『賢者グランロードに教えて貰いたいわ』と切なそうに魅力的な妖精の吐息を漏らしていたところからです。その息に抱かれるように包まれたいものです」


「全部じゃない!」

「紳士、グランロードの事を知ってる?」

「ええ、素晴らしい方ですよ。ですが彼は人目を気にする繊細な方でもあります。3強のグランロードであろうと、フレイさんの魅力にかかれば冷静ではいられないほどフレイさん、あなたは美しい。その雛鳥のような無垢なため息を私に吹きかけてください」


「シンシくーん、途中からスレイの話に変わっているわ」

「失礼しました。恋は盲目とは、よく言った、ものですね。ふー」

「あんた何良い事言ったみたいな顔してるのよ! 何で熱々のコーヒーを飲みながら優雅に言っているのよ! それどこから出したのよ!」


「シンシ、フレイは賢者グランロードに教わりたいんだって」

「私では、駄目ですか? あんなに情熱的に指導をしました。私の想いがまだ足りないようです」

「か、顔を近づけないで、手を握らないで! ちょ、ちょっと、近い、近いから!」


「申し訳ありません。まるで吸い込まれるように、失礼しました。賢者グランロードの事でしたね。教えを請いたいと。でしたら、依頼を出してみてはどうでしょうか? 銅貨1枚で」


 銅貨2枚でシンプルなパンが買える。

 銅貨10枚が銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚の価値になる。

 

「どうか、銅貨1枚で? 安すぎるんじゃない?」

「はい、3強の皆さんはお金に困っていません。賢者グランロードは繊細な方ではありますが素晴らしい方でもあります。依頼を出すだけ出してみましょう。書き方を手取り足取り教えますよ」


「か、書き方くらいは分かるわ」

「では、紙とペンと借りてきます。少々お待ちください」


 私は紙とペンを借りる為立ち上がりつつ後ろに耳を澄ます。


「てっきり反対されるかと思ったわ」

「シンシは、いい人ではあるのよね」

「孤児院に寄付もしているみたいです」


「そう、なのね。でも、3強、スラッシュみたいな感じでしょ?」

「フライシャドーさんは良い人だと思いますよ」

「お待たせしました。紙とペンです。どうぞ」

「いちいち膝をついて渡さなくていいわ……でも、ありがとう」


「そう言っていただけると励みになります」

「もう、そういう事を言うからお礼を言いづらいのよ」

「分かります、恥じらいのあるフレイさんは、そうでしょうとも、しかし、そこがグッときます」

「書くから黙ってて」

「……」


 フレイさんが紙を書き終わった。


「はい、きれいな文字に、端的な依頼内容、素晴らしいです。では、提出してきます」

「え? 私が直接出さないと駄目なんじゃ?」


「いえ、私は信用しても貰っています。それと、ギルドの方がすべてのやり取りを見ていましたから。それが証拠です。では行ってまいります」


 私は紙を提出してペンを返し素早く席に戻る。


「皆さんは3強を誤解されているのかもしれません。スラッシュさんはいつもお酒を飲んでいてギャンブルと下ネタばかり言っているように見えるかもしれません。しかし彼は戦いでは頼りになります」


「シンシは、人の悪口をあまり言わないように見えるのよねえ」

「そうでしょうか?」

「そうよ。フレイ、パンツを見せてシンシに武器を貰いましょう」

「そうですよ、フレイちゃん、シンシさんは良い人です。少しだけ我慢をしましょう」


「……待って、今まで聞かないようにしていたけどニナ、右手の中指に高そうな指輪を装備しているわよね? 誰に貰ったの?」

「そ、それは……」

「私です」


「それとブレインネル、メガネを買って貰って、腰に差している杖も高そうに見えるわ。誰に買って貰ったの?」

「シンシよ。だからあんまり悪く言えないのよねえ」


「買収されてるわよ!」

「ニナさんもブレインネルさんもフレイさんの事が心配なんです」

「私とブレインネルちゃんだけいい装備を付けていると悪い事をしている気分になってきます。炎竜の杖を貰いましょう」


「誘導されているわ! ニナ、目を覚まして!」

「でも、シンシさんは凄く丁寧に色々教えてくれます。私も、悪く言えません」


「周りから……」

「フレイさん、どうしました? 言いたい事があれば私にぶつけても構いません。私の胸に飛び込んで来ても構いませんよ」


「周りから外堀を埋めているわ!」

「そういう側面がある事も事実ではあります」

「それだけが事実よ!」


「他の側面もあります。フレイさんのパーティーが強化される事でフレイさんの安全度が上がります。冒険者は100%の安全を得る事は出来ません。しかし、90%を95%に、限りなく安全に近く持っていく事は出来ます。命より大事な事はありません。安全を95%から98%にする為にパンツを見せて炎竜の杖を手に入れましょう」


「何か、むかつくわ。その先回りするようなやり方がむかつくのよ」

「それは否定しません。フレイさんは18才、私は20才で2年分先を行っています。先回りと感じるのも無理はありません。結婚する場合男性が2才年上、丁度いい年齢差でもあります」


「話に、ならないわ」


「フレイちゃん、炎竜の杖を使えば冒険者として楽になれますよ?」

「フレイ、パーティーリーダーとして炎竜の杖を装備しましょう」

「その通りです。フレイさんが私にパンツを見せる事で物事がスムーズに進んでいきます」


 遠くからスラッシュさんの声がした。


「はっはっはっは! 変態紳士! お前がフレイに近づけば近づくほど好感度が下がる! やっぱりお前には無理なんだよ! はっはっはっは!」


 今はこれでいい。

 スラッシュさんは今までフライシャドーさんの恋愛を何度も潰してきた。

 

 フレイさんと結ばれる一番の障害はスラッシュさんだ。

 スラッシュさんは僕に対して『無理だ』と、『あいつはほおっておいても自爆する』と。

 そう見えるように持っていく。

 特にこのギルドの中では。

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