隣の席の天敵美少女の裏アカがまさかの育乳アカだった。悪戯心で「好きな人と一緒にいると育乳に効果的!」とアドバイスしてみた。結果、俺の傍から離れなくなった
第12話自分からすり寄って行くのか……(困惑)
第12話自分からすり寄って行くのか……(困惑)
「ん? なんだか死んで腐った魚の目のようだと普段から思っていたけど、今日は目の下にクマまで出来てるのね。ただでさえ正視に耐えない顔が更に酷いことになってるわ」
「あ、あの、斗南――」
「どうせあなたのことだから、昨日も夜ふかししてゲームかなにかで遊んでいたんでしょう? あなたという男はどうしてそうも不真面目で不摂生なの? 全くもう、前世でどんな悪行をしたらあなたのような生き物に生まれ変われるのかしら。あなたもしかして、前世では全国津々浦々にあるお地蔵さんを全部蹴って回ったんじゃ――」
「あ、あの、斗南。まずいつも以上にキレッキレの毒はひとまず置いとけ。その前にだな――お前、ここで何してるんだ?」
当然の疑問を吐くと、えっ? という感じで、斗南雪姫が動揺した。
「な、何してる――とは?」
「いや、だって、いや……なんで、としか。なんでここで立ってるんだ?」
「さっぱり要領を得ないわね。一体全体私に対して何が聞きたいのかしら?」
「もしかしてお前――誰かのこと待ってるのか?」
もうこれ以上本人に主導権を預けておくと埒が明くまい。俺が多少、ツッコんだ予想を口にすると、斗南雪姫は面白いぐらいに動揺した。
その長い髪をスクールバッグを持っていない右手で弄りながら、頭の上のネコミミをプルプルピコピコと震わせて、あっという間に物凄く挙動不審な感じになった。
「ばばば、馬鹿なことを言わないでほしいものね。何故私が通学路で立ちんぼして誰かが来るのを今か今かと待ち構えていなければならないの? そんな非効率的で意味不明なことをする蓋然性も必然性も存在しないわ。全く何を邪推してくれてるのよ」
ふむ、要するに――図星、ということになろうか。
通学路が一緒だということは今初めて知ったが、それにしても、何故に?
コイツ、俺以外には知り合いも友達もいないだろうに。
一体誰をコイツはここで立ちんぼなんかして待っているのだ?
「ま、まぁ、言いたくないならいいけど――」
俺が斗南雪姫をちょっと不気味な視線で横目にし、その側を通り過ぎて学校を目指すと――ススス、という感じで斗南雪姫が隣に寄ってきた。
まるで妖怪のような這い寄り方に、うわっ、と俺は身を竦ませた。
「――なんだよ?」
「なんだって何が?」
「なんで寄ってくる?」
「歩道が狭いから」
「な、なら前歩けよ」
「あなたの粘ついた視線を主にお尻の辺りに感じそうだから嫌」
「な、なら後ろに――」
「あなたのような男をずっと視界に入れながら登校するのは嫌」
もうなんなん!? この人、なんなん!?
頭の中の不気味メーターの針はあっという間に60%を突破し、俺はしばし隣の斗南雪姫の横顔を凝視した。
凝視したが――斗南雪姫は居心地悪そうに視線を伏せたまま、こちらを見ようともしない。
仕方なく俺は無言のまま前に向き直り、また歩を進め始めた。
ひたひた、ひたひた、ひたひた。
ひたひた、ひたひた、ひたひた。
そういう感じで、斗南雪姫は俺の横五十センチぐらいの距離をキープして、完璧に歩調を合わせてついてくる。
肩を並べて歩いている、というよりは、横に貼り付かれている、という感じである。
「――あの」
「何?」
「何だよ?」
「何がよ」
「な――なんで俺の横にずっといるの?」
「別にどこを歩こうと私の勝手じゃない」
「い、いや、そうなんだけど……」
俺がどのようにこの状況を質問しようか四苦八苦していた、その時。
ふと吹いた風により、斗南雪姫の髪から、柑橘系なんだかフローラル系なんだかよくわからないシャンプーの香りがふわりと香り、正直、ドキッとした。
俺の「ドキッ」が聞こえていたというように、風に靡く髪を手で押さえて、斗南雪姫が俺の方を見た。
「……何?」
「い、いや、わかったわかった。俺がもう少し端っこに寄ればいいんだよな? 確かに歩道は狭い。俺だけが占有するわけにもいかないよな……」
意味不明な理屈を口にして、俺が車道の縁石ギリギリにまで寄って歩き始めると――ススス、という感じで、開けた分のスペースを埋める感じで斗南雪姫が接近してきた。
「だ、だから……近寄ってくるなって」
「え……?」
俺の抗議に、斗南雪姫が顔を跳ね上げた。
しばし、何故なのか激しくショックを受けたように俺の顔を見つめていた斗南雪姫が、しゅん、という感じで視線を下に下げた。
「……ご、ごめんなさい。そんなつもりではなかったのだけれど……」
「へっ?」
「そ、そりゃあ、朝もはよからこんな可愛げのない女に引っ付かれたら……いくらあなたでも迷惑よね?」
「えっ、あ、いや、いやいや! そ、そういうことじゃない! 距離が近すぎるからちょっと離れてくれ、って意味であって、俺についてくるなという意味では……!!」
「えっ? じゃ、じゃあ、ここにいてもいいの?」
「も、もう好きにしてくれ……」
もう、何なんですか今日のこの人は!?
めちゃくちゃご機嫌取りが難しいんですけど!?
俺が大混乱していると、ふふっ、と斗南雪姫が安心したように微笑んだ。
思わずその微笑みの艶やかさにはっとなってしまった俺が気まずく視線をそらすと、あら、という声が聞こえ、俺は失策を悟った。
案の定、斗南雪姫は完全になにかを確信した半笑い顔で俺を見た。
「あらあら、何を意識してるのかしら、雨宮君?」
「うっ――!?」
「もしかしてただのお友達でしかない私に隣を歩かれて、妙に意識してしまったりしていて? だから離れろだのなんだのと……」
「ばっ、馬鹿、そんなんじゃねぇよ……!」
「いいのよ隠さなくても。まぁ、雨宮君は八方ビッチ男だから、明日には別の女の子とこういうことをしても不思議はないんでしょうけれど……」
「くっ……! おっ、俺をビッチ扱いするな! 俺みたいな男にそんなとっかえひっかえが出来るぐらい親しいヤツいねぇよ! わかってて言ってるだろ!」
「あら、異性と並んで歩いた経験がないの? なら雨宮君は処女ビッチってヤツかしら?」
――本当にお前、朝っぱらから一体何がやりたいの!?
俺は思わず素っ頓狂な声を発しそうになった。
通学路で誰かを待ち伏せしていたと思っていたら特に許可を求めることもなくついてきて、拒絶されたと思って落ち込んだ次の瞬間にはいつもの毒舌に戻り、俺をからかってくる。本当に一体、今日は朝から何なんだろう。
俺がもう何を言われても無視しようと決意し、口を固く噤んだ、その時。
「あっ――」
不意に足がもつれ、俺の身体が車道側に揺れたのと同時に。
パァーン! という甲高いクラクションの音がして、俺ははっと目だけで背後を振り返った。
見ると、殺気立ったようなスピードでトラックがクラクションを鳴らし、背後から猛然と迫ってきていた。
しまった、轢かれる――! と思った瞬間、ぐい、と腕が歩道側に向かって引かれ、うわっとばかりに俺は体勢を崩した。
それでも、何とか俺の身体が歩道側に戻った瞬間、猛然とトラックが横を通り過ぎた。
「ったく、ここは通学路だ! 学生には気を使いやがれっての……!」
俺が猛烈なスピードで走り去ってゆくトラックを睨みつけると、「あ、雨宮君……!」という声がすぐ耳元に発し、俺は我に返った。
我に返った途端――斗南雪姫の物凄く端正な顔が意外なほどすぐ近くにあって、俺は心底ぎょっとした。
気がつくと、俺は歩道側の住宅の壁に左手を突いて立っていて――その腕のすぐ横に、硬直したまま壁にへばり付いている斗南雪姫の顔があった。
どうやら、斗南はクラクションに驚いて咄嗟に自分のことを引っ張ってくれたらしいが、その結果体勢を崩してしまった今のこれは――いわゆる、壁ドン体勢になっていた。
「うわわっ――!? わ、悪い斗南――!!」
俺が慌てて壁から手を離して解放してやると、極端に緊張している斗南の身体から力が抜け、それと同時に頭の上のネコミミもへにゃりと力を失った。
俺が物凄くドギマギするやらさっきのお互いの顔の近さにパニックになるやら、とにかく挙動不審になっていると、ようやく斗南雪姫が住宅街の壁から離れて立った。
「あっ、雨宮君……大丈夫? 怪我はない?」
「だっ、大丈夫だ。あの、さっきはお前が引っ張ってくれたんだよな?」
「そうだけど――」
「わ、悪い悪い。お前が引っ張ってくれなかったらトラックと接触してたかも……」
「い、いいのよお礼なんて。それよりも……」
次の瞬間、えへへ、と、斗南雪姫は何故なのか嬉しそうに微笑み――。
一瞬、自分の胸の辺りを右手で擦ったのを、俺は見逃さなかった。
「雨宮君ったら、もう少しで私と額がぶつかるところだったわよ? 全くもう、こういうのは本当に心臓に悪いわ……」
え、え、なんでそこで、胸に手を当てる?
一瞬、脳裏に走った稲妻のような違和感が消えぬうちに、ごくっ、という感じで、斗南雪姫の白く細い喉元が動いた。
「ああもう、あなたのせいで不必要なぐらい、凄くドキドキしちゃったじゃないの――」
不必要なぐらいドキドキ。
その一言を聞いて、俺の頭の中で今までバラバラだった回路が、カチリと音を立てて接続された。
え、え、まさか。
まさか、嘘でしょ?
そうだ、斗南雪姫が気になっているという人。
斗南雪姫が想いを寄せているという人。
斗南斗南雪姫という人が、ずっと一緒にいたいと願っている人――。
『ですから、明日からは思い切って、その好きな人に積極的にアプローチしていっちゃいましょう!
好きな人と一緒にいてドキドキするだけで、女性ホルモンの分泌が促され、育乳には効果絶大です!!』
――昨日、俺は斗南雪姫の裏垢に対して、確かにそうDMした。
今朝からやたら意味不明で挙動不審な行動の数々、そして今の、己の胸の成長を確かめるような動作。
そして今、斗南雪姫が口にした「凄くドキドキした」という一言も。
全てが、俺の頭の中で火花を散らして回路が接続され、猛然と電気を流し始めた。
え、え、え、まさか。
喜ぶとか驚くとかいう以前に、俺は単純に、狼狽えてしまった。
まさか、まさか。
斗南雪姫が好きな男子って、俺――!?
◆
この作品、実は一年前からチマチマ書いてたんですけれど
なんだか偉くケツの座りが悪いくせにやたらと人の手を止める作品で、
これを爆死させないと他の作品が書けそうもないと判断し緊急放流を開始します。
もう十万字書いてるのでしばらく止まらずに更新します。
よろしくお付き合いください。
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「続きが気になる」
「もっと読ませろ」
そう思っていただけましたら
下の方の★から(評価)いいよ! 来いよ!!
胸に賭けて胸に!!
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