第11話市道を征く(登校)

 その後は――眠れなかった。


 ベッドの上で寝返りを繰り返し、ああでもないこうでもないと思いを巡らせ、十分ぐらい経ったらスマホを取り上げて『天これ』を起動し、推しの明治天皇ちゃんがフニフニ動くところを確認し、そして、結局プレイする気にもならず、ため息を吐いてスマホを仕舞い、そしてまた悶々と何かを考える――。




 斗南雪姫の想いを受け入れる、斗南雪姫の恋路を、彼女唯一の友達として応援すると決めたはずなのに。


 何より、別に友達として以上の好意を持っていない人に対して、嫉妬している自分が――たまらなく嫌だった。




 別に斗南雪姫が誰を好きになろうと、俺には関係ないことだ。


 けれどその恋に嫉妬しているのは、ズルい――と思っているからだ。


 本質的には自分と同じぼっちキャラの癖に、お前だけは誰かのことを勝手に好きになり、俺たちの世界から一抜けしようというのか――。


 そんな風に考えて、ともすればなんとかその恋を諦めさせる算段を考え始めている自分のよこしまさが、本当に嫌だった。


 それでも――俺は夜通しそんな事を考え、眠くなってきた辺りで邪な自分に立ち返り、あまりの自己嫌悪感に眠気が吹っ飛ぶ――それを延々と繰り返して、遂に一睡もせずに朝を迎えた。




 俺は、俺という男は、本当に嫌な奴なんだなぁ――。


 ほとんど味のしない白米を噛み、味噌汁で流し込んで、よろよろと歯を磨き、制服に着替えて、俺はふと、鏡を見つめた。


 嫉妬と寝不足、その両方が加算され、死んで腐った魚の目よりも更に数段濁った、己の目の黄色さが、これ以上なく醜く見えて仕方がなかった。


 初めて知った自分の本性の醜さに顔を歪め、クソ喰らえ、と吐き捨てた俺は、後は迷うこともなく一息に家の中を歩き、玄関を出て、通学路を歩き始めた。




 のそのそと、靴の底を引きずるように歩いていく俺を電線の上から見下ろしながら、カラスがアホー、アホーと鳴いた。


 ああ、俺は阿呆さ。単なるイタズラ心から友達の裏垢を知ってしまい、その友達に恥をかかせたその挙げ句、勝手に失恋まがいの気持ちになっている、天下無双のアホ男だとも。




 あぁ、ヤバい――なんだか泣きそうな気分になってきたぞ。


 そう言えば自分は、なんでこんなに一人で勝手に大ダメージを負っているのだろう。




 確かに斗南雪姫はそうしょっちゅうお目にかかれないほどの美少女なのは理解しているし、その毒舌やめんどくさい性格を除けば、根はとても真面目でいい子なのも理解している。


 だからただの友達でしかない斗南雪姫が誰と付き合おうが、自分がダメージを受ける筋合いはないのだ。




 だったら、何故――何故にこんな胸が痛いですかね?


 なんでこんなに、今すぐ悲鳴を上げて額を地面に叩きつけたくなるんですかね?


 俺って斗南雪姫のことが好きだったの? いやいや、それは流石にないない――。


 というより、いくら哀れなキョロ充だからと言って、こんな俺と友達になってくれた女のことをすぐ好きになっちゃうなんて、そんなの自分が可哀想過ぎて考えたくもない。




 だったら、この胸の痛みは一体何――?

 

 よくわからない絶望感に途方に暮れかけていた俺が、ズリズリと足を引きずって通学路の最初の角を曲がった、その時。




「――あら、どこの腐った死体が足を引きずって歩いているかと思えば、雨宮君じゃないの」




 え――? と俺が顔を上げると、そこには朝の清廉な朝日を浴びて光り輝かんばかりの、とんでもない黒髪美少女が立っていた。


 そこにその人物がいるのが信じられず、俺は二、三度、目をパチクリと瞬いた。


 その視線に、そこに立っていた人物も、きまりが悪そうに視線を逸らしてしまう。


 それと同時に、頭の上のネコミミもぷいっと横を向いた。




 なんで? どうして? 


 俺は驚いて、思わずその人物の名前を呼んでしまった。




「え――? ほ、斗南――?」







もう十万字書いてるのでしばらく止まらずに更新します。

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