第6話おっ、デレてんじゃ~ん!!(美少女)
まんじりともしないHRの時間を過ごしながら――俺は悶々と考えていた。
堀山先生が今日の一日の事や連絡について説明しているが、三分に一回ぐらい、ちらちらとこちらを見てくる堀山先生の視線に、斗南雪姫とはお隣さん同士である俺も気がついていた。
そのたびに斗南雪姫はその視線から逃れるかのように視線を伏せ、プルプルと震える。そしてその度に、連動してネコミミカチューシャの耳もプルプルピコピコと震える。
そのネコミミが震えるのを視界に入れる度に――俺の胸も死にそうに痛んだ。
あの、あの斗南雪姫が。
校内では並び立つものがいない孤高の優等生として知られた斗南雪姫が。
校外にすらその圧倒的な容姿の端麗さを知られる美少女が。
今やその孤高さ、クールさ、完璧さのイメージをぶち壊しにするネコミミカチューシャ姿でいるなんて――。
っていうか、斗南雪姫よ、お前、昨日のあのDMをまさか真剣に受け止めるなんて。
育乳には女性ホルモンの分泌が必要、恥ずかしい想い、ドキドキすればするほど育乳には効果的――。
どんなポンコツAIに相談しても絶対に出てこないような馬鹿馬鹿しいアドバイスを、まさか実行に移してしまうとは。
お前、お前という女の頭脳は、優秀な成績に比例せず、そこまで悪かったのか。
それとも、その毒舌クールキャラに似合わず、根は人の悪意を知らぬ純真な女の子なのか。
それとも、お前のそれ――。
俺は目だけで横を、そして斗南雪姫の制服の胸辺りを凝視した。
お前のそれ、その完璧な容姿の中では瑕疵でしかないその部分の貧しさを、お前はそこまで気に病んでいたというのか――。
そう思うとなんだか泣けてきて、俺は堀山先生の話を真剣に聞くフリで口元に手を押し当て、湧き上がってくる哀れさにどうにか耐えた。
ちなみに今、堀山先生は「校内でのお菓子の飲食は原則禁止」という話をしている。今の俺は傍から見れば、世界で一番校内でのお菓子の飲食行為に真剣に向き合っている男に見えたに違いない。
HRも終盤に差し掛かっていた。
やるしかない、と俺は意を決し、慎重にクラスの空気、そしてタイミングを図り始めた。
次にポケットから慎重にスマホを取り出して机の中に入れ、誰からも見えないようにLINEのトーク画面を開く。
そしてその中、『藤村巽』というアイコンをクリックした俺は、以下のように入力し、藤村巽に対してメッセージを送信した。
『今からお前に斗南と話すきっかけをやる。これを見たら俺に合わせろ』
その文言が送信された瞬間、堀山先生の「以上でHRは終わりだ」という台詞とともに日直が号令し、礼の後着席して、朝のHRは終わった。
背後から観察していると、藤村巽がスマホを取り出して、眼鏡のレンズの奥の目を丸くしたのが見えた。
すう、と俺は息を大きく吸って覚悟を決め――教室の騒ぎが大きくなる前に、お隣さんの斗南雪姫に向き直った。
「おはよ、斗南。そのネコミミどうしたんだ? 可愛いじゃん!」
その一言は――まるで雷鳴のように教室中に響き渡った。
可愛い。その一言に、えっ? と浅く声を漏らして、斗南雪姫が目を見開いた。
バッ、と音がして、クラスメイトだけでなく、担任の堀山先生までもがこっちを凝視した気配が、肌に突き刺さるように感じる。
「最初はビックリしたけど、似合っちゃえば案外違和感もないもんだな。まぁお前のことだからどんな格好してもそれなり以上になるんだろうけど……お前が自分で思ってる以上に、俺はいいと思うぜ」
途端、俺が涙ぐましい努力で作り上げたヘラヘラキョロ充キャラが火を噴いた。
俺の一言に――はっ、と意図を察したらしい藤村巽が慌てて駆け寄ってきて笑顔を浮かべた。
「そうそう! 斗南さん、なんか新鮮に感じるよ、それ! いつもは隙がない感じでバリッとしてるのに、なんかこう、一気に近寄りやすい感じになった! 俺も可愛いと思う!!」
可愛い。藤村巽の一言に、斗南雪姫の顔が先程のそれとは違う、淡い桜色に色づき、斗南雪姫は大いに照れたようにはにかみながら「……ありがとう、雨宮君、藤村君……」とか細い声で言った。
その瞬間、斗南雪姫を中心に、不可視の、だが確実に心をざわめかせる波動が放たれ――クラスメイトの全員がその波動に感電した。
あの、あの斗南雪姫がデレた――その事実以上に、肌を色づかせてもじもじとする斗南雪姫の照れ顔というものは、これが強い。
今の状態の斗南雪姫とならもしかしてワンチャンお近づきに――健全な男子高校生として当然弾くべきそろばんを弾いたらしい男子連中が、狙い通り次々に声を上げ始める。
「おおおお、俺も可愛いと思うぞ、斗南さん!」
「そうそう、なんかいつもと違ってめっちゃ庇護欲掻き立てる見た目というか!」
「制服にネコミミとかご褒美すぎて直視できねぇよ! 生きててよかった!」
「やっぱり斗南さんならどんな格好しても似合うぜ!」
「可愛い! ネコミミ可愛い! 写真撮りたい!! ダメか!?」
可愛い。クラス中から次々と上がる声に、ほっ、と俺は内心、ため息を吐いた。
クラスとはひとつの生物であり、異物は排除するよりも取り込んでしまった方が平和に済むという高校生なりの処世術が、俺の行動により上手く発動してくれた。
やれやれ、兎にも角にも、これでとりあえず応急処置は出来たなと思っていると――ふと、斗南雪姫が目だけで俺を見た。
斗南雪姫は俺を見るなり、少しぎこちない笑顔を浮かべた。
斗南雪姫は孤高の人であるから、この人が他人に向けてはにかむことは、基本的に珍しいことである。
その笑顔がなんだかますます己の罪の意識を煽ったような気がして――俺はその微笑みに微笑みを返すことが、遂に出来なかった。
◆
この作品、実は一年前からチマチマ書いてたんですけれど
なんだか偉くケツの座りが悪いくせにやたらと人の手を止める作品で、
これを爆死させないと他の作品が書けそうもないと判断し緊急放流を開始します。
もう十万字書いてるのでしばらく止まらずに更新します。
よろしくお付き合いください。
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