第5話おっ(頭)大丈夫か? 大丈夫か?

「――おい斗南、お前ホント、大丈夫か?」




 一転して堀山先生が物凄く心配そうな表情になり、斗南雪姫の視線の高さに合わせて腰をかがめ、その両肩を掴んだ。




「なにか悩み事があるのか? 優等生のお前のことだ、きっとなにか悩んでるんだろう? 先生に相談してみろ……いや、相談してくれ」




 先生が肩を揺さぶる度に、斗南雪姫のネコミミもピコピコと揺れた。


 斗南雪姫は死ぬほどに真っ赤になり、涙目になった目を伏せてはいるが、意地を張っているかのように無言だった。


 あわわ……と俺が内心大慌てに慌てている前で、堀山先生は尚も言った。




「そんな女子高生が単なる思いつきで、しかもハロウィンでもないのにネコミミつけて登校するわけがないだろう? 誰かに脅されてるのか? 今こうして恥をかいているお前を見て誰かが笑ってるというなら、そんな外道は先生がぶちのめしてやる。だから安心して、そいつの名前を言ってくれ、な?」




 それ俺です、と、この状況で言ったらどうなるだろう、と俺は少し考えてしまった。


 今のあの表情である。堀山先生はきっと本気で俺をぶん殴るだろうし、周囲の生徒たちもサイテーだ鬼だ外道だ変態だと自分のことを罵るに違いない。




 絶対に動揺するわけにはいかない――!!


 そう気づいた俺が死ぬ気で平静を保とうとしていると、斗南雪姫が目だけを上げて堀山先生の顔を見た。




「あ、あの、先生……」

「な――なんだ?」

「先生、あの、これ……本当に、私がしたいからそうしてるんです。あの、あの……決して誰かに脅されているとかでは……」




 その一言に、堀山先生の顔が青ざめた。


 これは誰かに脅されているとかではない、本格的に斗南雪姫がおかしくなったのだと、堀山先生はそう考えたに違いなかった。


 でも、そこは優等生の斗南雪姫のことである。斗南雪姫は死ぬほどの羞恥に震えながら、再び口を開いた。




「これは本当に、趣味というか、その、私が、したいからしていることなので……あの、お願いだから、先生、このネコミミについて叱らないでもらえませんか……?」




 その時の斗南雪姫の声は震えており、表情も今すぐ顔が破裂するのではないかと思うぐらい真っ赤っ赤だったが、決して正気を失った目と顔ではなかった。


 クラス全員が唖然としている前で、堀山先生は斗南雪姫の肩から手を離し、「おっ、おう……」とよくわからない声を発した。


 物凄く注目を集めている前で、斗南雪姫は無言で自分の席まで歩き、そしてなにか意を決したように口を引き結んでから、俺の隣の席に着席した。




 クラス中が、水を打ったように静まり返った。


 誰も彼も、今しがた席に着席した斗南雪姫を――というか、その頭の上でピコピコ震えているネコミミを凝視し、何かを言いたげに口を開け閉めしている。




「おっ――おいお前ら! いい加減にしないか! 見世物じゃないんだぞ!」




 見世物ではないならなんでこの人はネコミミなんかつけて登校したんですか? 


 クラス中の何人かがそう言いたげな目で斗南雪姫と堀山先生に視線を往復させたが、かといってそれを口にできる勇気もなかったに違いない。




「ほら、いつまでもポカンとしてるんじゃない! 一日の始まりのHRだろうが! 今から出席を取る! いつもより大きな声で返事をしてくれ、わかったな!?」

 



 堀山先生が余計なことを付け加えて宣言すると、斗南雪姫は涙目になり、更に縮こまってしまった。


 羞恥に震える度に、斗南雪姫がつけた黒猫のネコミミがプルプルピコピコと震えるのが可笑しくてつい笑いそうになったが、ここで笑ったら俺の学生生活は終了だ。


 自分がしでかしてしまったことの罪の深さを思い知るような気持ちで、俺は丹田に力を込め、隣を見ないことに徹するしかなかった。




 その後、HRが終わるまで――斗南雪姫はあのネコミミ姿のまま、細かく震えていた。







この作品、実は一年前からチマチマ書いてたんですけれど

なんだか偉くケツの座りが悪いくせにやたらと人の手を止める作品で、

これを爆死させないと他の作品が書けそうもないと判断し緊急放流を開始します。


もう十万字書いてるのでしばらく止まらずに更新します。

よろしくお付き合いください。


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