14 ここ掘れニャンニャンになるぞ!(2)

「にゃあ(ここが、うちの玄関よ)」


 ルナが敷地内のカーポートを斜めに縦断して玄関扉の前まで行き、尻尾の先をピロピロっと揺らした。

 僕は外側から玄関先まで行き、道路から2メートルほど続いたアプローチの先にある、相田あいだ家の玄関扉を確認する。


 扉はアンティークオークの、洒落たデザイン。ルナはいつもこの扉からではなく、窓から出入りしているそうである。


 道路と面した側に門扉もんぴはなく、インターフォンと郵便受けが備わった、幅50cmほどの木目調の門柱のみが立っている。


「にゃあ(マメも、こっちまでいらっしゃいよ)」


 ルナが招き猫のように、手招きする。しかし僕はセキュリティ上、敷地内には一歩たりとも入ることができない。幸い相田家のモダンな箱型住宅は、オープンな造りなので、目隠しスモークはほとんど気にならないけども。


「みゃあ(僕は、ここからでいいよ。遠目から見る方が、わかることもあるからね)」

「にゃあ(そうなの?)」

「みゃあ(ルナはそこから、いろいろと教えてくれるかな)」

「にゃあ(わかったわ)」


 ルナがいる玄関ポーチの端には、観葉植物の鉢植えがいくつか置かれてあった。

 大きいモノで高さ1m以上、小さいモノでは50cmくらいだろうか。


「にゃあ(マメ、あの子は、ここに置かれていたの)」


 ルナが寂しそうな声で、その場所を示す。

 右前足の肉球を乗せたのは、オリーブとアカシアの鉢植えの間に置かれた、木製スタンドの上だった。


 なるほど。


「みゃあ(その場所だったら、ここからでも目視できるから、誰の目にも留まるね)」


 まあエクステリアの類は、他人に見せるのも目的のうちだろうから、仕方ないか。


「にゃあ(そうなのよねえ。マメ、犯人の手掛かり、何かつかめそうかしら)」

「みゃあ(そうだなあ…)」


 外からアプローチ部分や門柱周辺を、丁寧に観察するも、とくに変わった様子は見られない。


 左側の2台駐車可能な屋根付きカーポートには、白い外国メーカーのハッチバックが1台駐車されている。こちらもとくに、変わった様子はない。


 防犯カメラも、設置されていないみたいだ。


 手掛かりと言えるものは、まったく見当たらない。



 犯人はなぜ、敷地内まで入り、猫のガーデンオブジェを盗んだのだろうか。売るのが目的だったのか、それともデザインを気に入って、どうしても自分のものにしたくなってしまったのか……。


 住宅地という場所から考えて、おそらく犯人は、普段からこの辺りをよく通る人物だと思われる。近所の人なら、昼間に目をつけ、住人が寝静まった夜中に、盗みに来たとも考えられる。



「にゃあ(マメ、何かわかった?)」


 ルナが玄関ポーチから、アプローチを通ってこちら側へやって来た。


「みゃあ(いや…、とくに何も)」

「にゃあ(……そう)」


 期待した回答を得られず、しょんぼりと肩を落とし、耳を前に倒す。

 そんな姿を見せられると、胸が痛む。


 きっと、大好きな妹だったんだろうな。

 何とか力になっては、あげたいけども……。こうも何の手掛かりもないと、どうしようもない。



 その時ふと、ルナが不快そうに、右前足をバッバッと振った。


「みゃあ(? ルナ、足、どうかしたの?)」

「にゃあ(へ……?)」


 本人は無意識だったようで、指摘されて初めて、目が足へ向く。


 僕の目も、その足へ向いた。

 どうやら右前足の肉球に、何かがまとわりついているみたいである。

 ルナがもう一度足を振ると、数本ほど絡み合った動物の毛のようなものが、地面に落ちた。


「みゃあ(この毛は……)」

「にゃあ(あら、どこでくっ付いたのかしら)」


 これは……。


「みゃあ(……ひょっとすると、猫のオブジェが置かれてあった、木製スタンドの辺りでじゃない?)」

「にゃあ(ああ……。そうかもね)」


 手掛かりかも知れない。


 地面に落ちた毛をよく観察してみると、おそらく長毛種の動物のもので、黄ばんだようなクリーム色をしている。

 触った感触は、産毛のように柔らかい。

 ニオイを嗅ぐと、獣…、おそらく犬のニオイがした。


 ……犬の毛?


(TAMA、この毛、何の動物の毛かわかるかな)


 確信を得るため、頭の中でTAMAに訊いてみる。

 これだけの情報で、わかるだろうか。


(―――………、コノケ ハ オソラクこの毛はおそらくゴールデンレトリーバー ノ モノネゴールデンレトリーバーのものね


「みゃあ(ゴールデンレトリーバー…、そうか)」


 犬種までわかるなんて、さすがAIはスゴいな。


「にゃあ(ゴー?? マメ、なあにそれ)」

「みゃあ(ゴールデンレトリーバーは、長毛種の大型犬だよ。イングリッシュ系とアメリカ系がいるんだけど、この薄い毛色からすると、たぶんイングリッシュ系じゃないかな)」


 というのは、TAMAからの情報。


「にゃあ(犬? なあんだ。それじゃあ、泥棒とは関係がないわね)」

「みゃあ(……いや、ちょっと待って。ルナの家では、ゴールデンレトリーバーも飼われているの?)」

「にゃあ(いいえ。うちに、犬なんかいないわよ。相田あいだ家のペットは、私だけ。だからすっごく、愛されているの)」

「みゃあ(それじゃあどうして、この毛が、玄関ポーチに…)」


 まさか……。


 考えられる理由は、一つしかない。

 ゴールデンレトリーバーが、玄関ポーチまで侵入したから。


 一体、何のために?

 飼い主も、一緒だったのか?

 散歩でこの家の前を通るのは不思議でもないけど、2メートルほど先にある玄関ポーチまで来たとなると、少し気になる。


 ……でも、犬が散歩中に、他人の家の敷地内からモノを盗めば、飼い主だって気付くハズだよね。……まあ…、わざと犬に盗ませたとなれば、話は別だけど。猫のオブジェの首には、ルナと同じピンク色の首輪が付けられていたみたいだから、犬でも運べなくはないし……。



「みゃあ(…ねえ、ルナ。この辺りで、ゴールデンレトリーバーを飼っているお宅、知らないかな)」

「にゃあ(…ゴールデン、なんたら? かどうかはわからないけど、大きくて毛足が長い犬なら、知っているわよ)」

「みゃあ(本当? その犬は、どこにいるの)」

「にゃあ(ここから少し行った先の、田村たむらさんのお家。トムっていうの。うちのママとトムのママが、よく道端でおしゃべりをしているわ)」

「みゃあ(知り合いか……)」


 知り合いのご近所さんなら、ルナの家の玄関ポーチに猫のオブジェが置かれてあったことを知っていても、不思議ではない。さらに言うと、そのまでもを……。


 やっぱり猫のオブジェは、ミュウセンの白磁猫だったのだろうか…。


「みゃあ(ルナ、今からトムのところまで、僕を連れて行ってくれないかな)」

「にゃあ(ええっ! 嫌よ。あの犬、怖いもの。人間には抱きつくくらい愛想がいいくせして、猫には意地悪なんだから)」

「みゃあ(まあ、そう言わずに。もしかしたら、君の妹の居場所が、わかるかも知れないよ)」

「にゃあ(本当!? まさか、トムが盗んだの?)」

「みゃあ(さあ、どうかな。まだわからないけど、それを確かめたいんだ)」

「にゃあ(わ、わかったわ。それじゃあ、私について来て)」


 僕には犬翻訳アプリ『ワンだほーチャット』が、搭載されている。

 トムから話しを聞けば、何かしらの情報が得られるハズである。


 再びルナの後へ続き、今度はトムがいる田村家を目指す。

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