ゆらぎ神社のあやかし守り
隣のトロロ
第1話 放課後、誰もいない神社で
放課後の帰り道、神楽こよりはふと足を止めた。
空は茜色に染まり、春の風が制服の裾をそっと揺らす。遠くからは部活の掛け声や自転車のブレーキ音が聞こえてくるけれど、彼女の足はまったく別の方角へと向いていた。
「……こっち、だったかな」
誰に聞かせるでもない小さな声を落としながら、こよりは静かな住宅街のはずれにある小道を歩く。
その先にあるのは、誰も訪れなくなった古びた神社——「ゆらぎ神社」。
大きな鳥居は木の皮が剥がれ、石段には枯れ葉が積もっている。境内に入ると、空気がひんやりと変わった。まるで、外とは別の時間が流れているようだった。
「誰も、いないよね……」
こよりは小さく呟きながら拝殿の前に立った。社の屋根は苔むしているけれど、どこか懐かしいにおいが鼻先をかすめる。
幼いころ、誰かに連れられてここに来た記憶が……あったような、なかったような。
そのとき——
カラン……カラン。
風が吹いたわけでもないのに、どこからか鈴の音が聞こえた。
耳を澄ますと、拝殿の奥。祠の影に、銀色にきらめく小さな鈴があった。
「……あれ?」
引き寄せられるように、こよりは足を踏み出した。
その鈴はまるで光を集めているように、周囲だけやわらかく輝いている。
「……触って、いいのかな」
ためらいながらも、手を伸ばす。
指先が鈴に触れた、その瞬間——
——世界が、弾けた。
目の前の景色が、白く、眩しく、歪んでゆく。
風が止まり、音が消え、足元がふわりと浮いたかと思えば、すぐに引きずりこまれるような重力が全身を襲った。
「えっ……? なにこれ……!」
声にならない叫び。
気づけば、目の前にあった社は消え、ただ光だけが広がっていた。
そして——
すべてが、静かになった。
⸻
次に目を開けたとき、こよりは森の中に立っていた。
見たこともない樹木。空は淡い金色に染まり、木々の枝には紙垂(しで)が揺れている。風はなく、鳥の声も虫の音もない。ただ静かで、幻想的で、現実味のない空間だった。
「……え? ここ、どこ?」
足元には、整えられた石畳が続いていた。まるで導くように、森の奥へと伸びている。
こよりは一歩、踏み出した。
すると——背後から、声がした。
「目覚めたか。……【守り手】よ」
驚いて振り返った彼女の目に映ったのは、一人の少年だった。
銀色の髪が肩まで流れ、白い装束を身に纏っている。
そして彼の頭には、狐のような耳が、確かに生えていた。
「な……に、それ……耳……?」
こよりが言葉を失って見つめると、少年は静かに目を細めた。
「我が名はユウ。ゆらぎ神社の守り狐だ。おまえを、待っていた」
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