第2話 教授との対話
「ふっふっふ……こりゃ面白い。君、いい質問をしたね」
白衣の老人――篠原教授と名乗ったその人は、僕の突拍子もない質問に一瞬驚いたものの、すぐに目を細め、楽しそうに笑った。
「えっと……変なこと聞いてすみません」
「いやいや、謝る必要はない。むしろ、今日の来場者の中で一番、科学的な質問だよ」
「……ほんとですか?」
「本当さ」
教授は、模型の腸を指さした。
「これは大腸。およそ1.5メートル。普通の人間なら、ここで水分を吸収して、腸内細菌と一緒に便を形成する。だが――」
彼はそこで言葉を区切り、僕の目をじっと見つめた。
「“可愛い女の子”は違う。」
「え……?」
「彼女たちは、うんこをしないんだ。」
言い切った。なんの冗談も、含みもなかった。教授は、真顔だった。
「しない……って、どういうことですか?」
「生理学的な観点から見れば、極めて明快だよ。君が“可愛い”と感じる存在には、いくつかの共通した特徴がある。肌がきれい、香りがいい、動きがしなやか、話し方が穏やか。そしてそのすべてが示しているのは――身体の内部環境が、他の人間とは根本的に異なるという事実だ」
教授の言葉は、静かに、でも確信に満ちていた。
「“可愛い女の子”は、排泄しない。なぜなら、彼女たちの身体は、排泄という機構を必要としないように最適化されているからだ。細胞が代謝を完遂し、残渣を生まず、腸は仮に存在しても、働かない。つまり、“排泄という現象そのものが、存在しない”身体構造なんだ」
「……!」
「これは例外や逸脱ではない。むしろ、美という感覚が生理的に求める“清浄性”の到達点とも言える」
僕は息を飲んだ。目の前で語られているのは、夢でも妄想でもなく、科学的な言葉で語られる“神秘”だった。
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