重くたってお見舞いしたい!(3)

「へええ!? 遠藤……って……ってかなんで白装束!?」


 玄関で立ったまま信じられない物を見た、と言う感じで悲鳴のごとき声を上げられているお義姉様。

 自分でも笑顔が引きつっている事が分かるほど動揺している私。


 ひゃああ……ど、どうすれば……修一さん、助けて……


「ちょ……姉さん! 何でいきなり来てんだよ!」


 はああ!

 救いの神が!

 修一さん……


 泣きそうな顔で修一さんを見ると、ニッコリと笑って私に向かい頷いてくださる。

 ああ……嬉しい。


「いや、姉が弟のお見舞い来て何が悪いの? ってか、その反応……まさか、あんた……この子……」


 ああ……お義姉様。

 さすが察しがお早い。

 そうなのです、この真白は修一さんの彼女……


「手込めにしたの!?」


 はへえ!?

 て……手込め!?

 それって……無理矢理……ふおお!

 何たるはしたないことを……想像するだけで……あれ? 修一さんがお相手って思うと……嫌じゃ無いかも……


 あらぬ妄想により顔が真っ赤になりながらせっせと汗を拭う私の背後で、修一さんとお義姉様の声が。


「あのさ、どこをどう見たらそうなるんだよ!」


「どこをどう見てもそうでしょうが! じゃあこの子の白装束は何! アンタに無理矢理手込めにされて、悲しみのあまりでしょうが。なにより、決定的証拠。アンタが普通の手段で彼女なんて出来るわけ無い!」


 へええ!?

 なんたる……暴言。

 私は堪らず、修一さんに向かい指を差しているお義姉様の前におずおずと向かいました。


「あ、あの……お義姉様……しばしお時間を……」


「可哀想に……ゴメンね、こんなオタクのコミュ障のせいで、人生メチャクチャに……お詫びはコイツの貯金吐き出させて、慰謝料に……」


「違うのです、お義姉様! あの……その……私……修一しゃんの、さんの……」


「姉さん。この人は間違いなく僕の彼女だよ。言うの遅れてゴメン。今から説明するから」


 ●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇


「ふむ……まだ信じらんない。こんな可愛い子が……あんたの……」


 うわあ……可愛いなんて……えへへ、お義姉様に言われちゃった。

 録音しとけば良かった。


「ねえ、春日部真白さんだっけ? 本当に……いいの? こんなので」


「姉さん、それ弟の前で言うか!」


「アンタは黙れ。春日部さん。シュウ……修一、気の利いたことも言えないしイケメンでもないし、何なら稼ぎもそんなに良くないよ。もし、その辺りで勘違いしてたら後々困るからさ……」


「あの……お義姉様」


「ふむ? なに?」


「今からお義姉様に嫌な思いをさせてしまうかもですが、ご容赦頂ければと……この真白、全力でお義姉様に……反論致します」


 私の言葉に目を見開いたお義姉様に向き直ると、私はスッと息を吸いました。

 修一さんを否定するのは、身内といえども……


「稼ぎが何だというのです。そんなのは私も働いてます。二人で共に勤めれば良いのです。気の利いた事が言えない? 私だって言えません。私……凄く重いし、緊張するとすぐ噛みます。重すぎて今まで、沢山好きな方にフラれてきました。でも、この方はそんな私に『重いんじゃ無い、真っ直ぐ向き合ってるんだ』と言ってくださいました。私にはどんな気の利いた言葉よりも宝物です。こんなのでいい? 良いのです!」


 一旦言葉を切ると、私は……私は一際大きな声で言いました。


「修一さんがいいのです! 誰よりも大好きなんです! 彼が笑ってくれると、蕩けそうになります。彼の好きな物は凄く魅力的に映るし聞こえます! 一緒に居るだけで、光はキラキラしてるし空気は美味しいです。ただ公園のベンチに座ってるだけで観光地に居るより、幸せです。この人に……愛して頂けてる。そんな自分が……大好きなんです!」


 吐き出すように大きな声で言った私は、ホッと息をつきました。

 はあ……スッキリし……って、ひゃああ!?

 私……私、お義姉様になんて言い方を……!


「お、お義姉様……あの……何たるご無礼……この真白、舌を噛んでお詫び……」


「……とう」


 へ?


 お義姉様がうつむいたまま、ポツリと何やら。

 な、何を……


「ごめん、俺……ちょっとトイレ」


 そう言うと、修一さんは目元を手で押さえたまま、お手洗いに向かわれ後には私とお義姉様。そしてお義姉様は顔を上げると、顔を赤くして私をジッと見ました。


「ありがとう……あんなのを……そこまで」


 そう言うと、お義姉様は突然私を勢いよく抱きしめました!

 へええ!?

 な、なに……を!


「あいつさ……本当に今まで恋愛と縁無くてさ……優しい奴なんだよ。でもさ、イケメンでもないししゃべりもからっきしだから、全然モテなくて……心配してたんだよ。でも……有り難う。あいつにもそんなに言ってくれる人が……いたんだね。ありがと」


「お義姉様……」


 私も感極まり、思わずお義姉様を強く抱きしめました。


「お義姉様! この真白にとって修一さんの愛は、巨万の富にも勝る財宝です」


 お義姉様は私の顔をジッと見ると、手を伸ばして私の頭をポンポンと軽く叩くと言いました。


「春日部……いや、真白ちゃん。シュウの事で何かあったらいつでも言ってね。これ、私のラインのID」


 そう言うとお義姉様は私に向かってニヤッと笑いました。


「私、真白ちゃんの大ファンになっちゃった。何でもしてあげるからね」


 な……なんでも!?

 いや……でも……


 私はその言葉に慌てながら両手を振って言いました。


「あの……そんな……して頂く事なんて。ただ……ちょっとだけ……そう」


 私はお義姉様にニッコリと微笑んで言いました。


「近日中に修一さんと私のご両親、叔母様、弟……ああ、あと親友の子が居るのですが、みんなで、顔合わせのお食事会を……と。その際にぜひご出席を。あと、明後日はお暇でしょうか? 修一さんにもお伝えをしますが『お付き合い半月目記念パーティ』を叔母様と弟も交えて計画しております故、お義姉様もぜひ」


「……へ?」


「そうそう! 一つだけお言葉に甘えさせて頂ければ……修一さんのお好きな寝具のメーカーを伺えればと。新婚生活において重要で。後……下着姿で寝る女子はいかがでしょうか……私、それがクセで……ひゃああ、恥ずかしい! それと、ウエディングドレスや白無垢の好みも教えて頂ければと」


「えっと……真白ちゃん」


「はい!」


 お義姉様は心なしか引きつった笑顔で私を見ました。


「その……白装束って……もしかして、手込めじゃ無くて……」


「はい、修一さんにお風邪を引かせてしまったので、完治しなければ生きては還らぬと言う覚悟の証です」


「そ……そうなんだ~凄いね~はは……」


 ●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇


「じゃあね、シュウと真白ちゃん。また遊びに来るから」


「はい、お義姉様。次回は近日予定の親族一同顔合わせにて」


「あ……いや、それは要検討にて……所で真白ちゃん」


 そう言うと、お義姉様は私をチョイチョイと手招きすると、マンションのロビーまで連れ出しました。

 はて? なにを……


 そこで立ち止まると、お義姉様は私を振り返ってそっと耳打ちしました。


「一個だけアドバイス。シュウね……ビキニサンタのコスプレ好きみたい。あと、ギャップ萌えするから」


 へえ!? ビキニ……サンタ……!?

 そ、それは……どのような。


「お……お義姉様……ご助言、感謝致します」


 頭を下げる私にお義姉様は、ニヤッと笑いながら手を振って歩き去って行きました。


「じゃあね、真白ちゃん。シュウをよろしく」


「はい。地獄の果てまで修一さんをお守り致します」


 そう言うと私は深々と頭を下げました。

 何たる慈悲深きお義姉様。

 この真白、つくづく果報者です。


 ……はて?

 ビキニサンタとは何でしょうか?

 今度加奈子さんに聞いてみることと致しましょう。

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