友とのひとときと魔物討伐体験施設
今日は陽菜と楓と約束した日だ。私は動きやすい服装に着替えて出発する。
待ち合わせ場所はガーディアン体験施設だ。
思いの外早くついた私はスマホを手に二人に連絡をする。
陽菜は近くにいるらしくてすぐに着くらしいけど。楓は返事が無い。
「…楓は大丈夫なのかな。」
「おーい!」
どこからか楓の声がした。周りを見渡して彼女を探すが見当たらない。
そして目の前に一つの影が落ちてくる。
「とうっ!!」
「楓っ!?」
目の前に楓が降ってきて小さく驚き、彼女はイタズラな笑みを浮かべる。
というかどこから来たの…この子。
「どうやって来たの?」
「ビルを飛び移って来たんだ〜」
そんな楓の返答に私は苦笑いをする。
それと同時に彼女の運動能力の高さに驚いていた。やはり楓は何かをされたのかな。
「麗華ちゃん、どうしたの〜?眉間に皺を寄せてさ。」
「なんでもないよ。後は陽菜だけだね。」
しばらく楓と話していると陽菜がやって来た。駆け足でやってくる彼女。動きやすい格好をしているとはいえどこかあざとい雰囲気が見える。
全員揃った事を確認して早速施設へと入るとそこには様々な子連れの家族や学生が多くいた。
話題の施設と言われていただけあって集客率が凄い。
「どれから行く?」
「やっぱ、魔物討伐体験でしょ!」
楓が言う魔物討伐体験…実際の魔物を使わずに仮想空間で戦闘をするもの。ロボットでやるのでは無いのが驚きだ。
「麗華ちゃんの所の最新技術はすごいなぁ…」
「そうかな…陽菜ちゃん。」
「だって、最新技術でしょ?わくわくするじゃん!」
私は少し複雑な気持ちになる。お父さんは私を政府に実験体として預けて捨てたから。
…
あまりいい顔は出来ないな。
「麗華ちゃん?」
「楓…」
「大丈夫〜?ほら、せっかくなんだからこれ、3人でやってクリアしようよ!」
そして私達は魔物討伐体験の列に並んで30分、他の人達と合同でする事に。
成人男性二人か。
「おや、よろしくお願いします。お嬢さん達。」
氷のような透明感のある水色の髪をした紳士的な男性がそう言う。
なんだろうこの雰囲気。普通ではない。
誠也とか、茅葺さんとかと同じ気配がする。それと共に感じる、異質な気配…
「…固まっているぞ。すまないな。我の友人が。」
「申し訳ございません。」
彼の友人らしき人の気配も、どことなく異質だ。少なくとも土方さん達よりも強い。
彼らを見ていると陽菜が私にゴーグルを手渡してきて私はそれを装着してベッドに横たわると目の前に仮想空間が映し出された。
周りを見ると楓達がいて、感触もリアルだった。
待っている間に他の人が体験している様子が映っていたのを見ていたので戦機鎧は封じて戦う事になる。
さて…目の前に出てくる相手は…
場所は雪原。
突如空気が揺れて地響きが激しくなる。
「…なっ、何あれっ!!!」
「…これは!?」
「わー!大きい〜!」
私達は目の前の巨大な魔物を見て驚きを隠せなかった。
大きな体に口…怖さすら感じる。
それとは対照的に男の人二人は落ち着いた様子を見せていた。
「氷原の化け物か…氷室。やれるか?」
「勿論ですよ。ネオ様。…シベリアンデスワームがここで当たるとは驚きでしたが…」
シベリアンデスワーム…?
そういう名前の魔物なのか。
「これより氷原の化け物退治の演習を始める。演習であれど手を抜くな?さぁ…」
「──愉快な演習の始まりだ!!」
ネオと呼ばれる人はそう大声で言ったのと同時にシベリアンデスワームが雄叫びをあげる。
広範囲に及ぶ魔法に合わせて突進や薙ぎ払い。逃げるのに精一杯だ。
「さて…やりますか…ネオ様。あれは任せましたよ。」
「勿論だ。」
氷室と呼ばれる男は静かに魔力を高めてネオはデスワームの周りを動き回って撹乱を始めた。
彼の動きは間違いなく慣れている人の動きだった。
対する私達は何とか死なないように動き回る。
攻撃を試みるが魔法の障壁に阻まれていて攻撃が通らない。一体どうすれば…
「まずは厄介な防壁を引き剥がす!!」
ネオはそう言って魔法を駆使しながら飛び上がって蹴りを放ってデスワームの頭部を弾くと右腕に魔力を込めてとある武器を形成させた。
「痛いのをお見舞いしてやる。ネオス・パイルバンカー!」
大きく開かれた口に魔力で出来た杭を超高速で撃ち出す。すると魔力の障壁にヒビが入るのが見えた。
…なるほど、攻撃をすればいいのか。壊せるなら、倒せる。
力を隠すのは難しくなるけど。仕方ない。
「戦機システム。起動。」
戦機システムデバイスの刀を掲げて戦機鎧・ホムラを纏う。
「麗華ちゃん…何…?その姿…」
「麗華ちゃんかっこいい!」
突如紅い甲冑に身を包んだ私に驚き困惑する陽菜と目を輝かせる楓をよそに私は刀を構えて突撃する。
翼のように両肩に浮かぶ剣を開いて炎を舞い上がらせながら突進してデスワームを攻撃するとネオが「根性があるようだな。」と言う。
「火力が必要なんですよね。」
「あぁ。そうとも。」
「ならっ!!」
私は防壁に向かって誠也から貰ったパイルバンカーを撃ち込んでデスワームの防壁を破壊すとすぐにネオが叫ぶ。その後に背後から丁寧に練り上げられた魔力を感じた。
「今だやれ!!」
「外しませんよ…!!」
氷の槍が投げ込まれてデスワームの頭を穿いて爆発する。だがこれで絶命する事は無かった。
「総員畳み掛けろ!!」
ネオがそう叫び、私達は全力の攻撃を叩き込んだ直後にデスワームへ魔力が集まるのを感じ、私は楓と陽菜を連れて離れると爆発を起こして起き上がった。
再度防壁を貼られて心が折れそうになった。
「心が折れそうか?なら荷物をまとめて帰れ!」
私の表情を読み取ったのかネオはそう挑発をする。
「折れてなんか…!!」
私は再度刀を構えて攻撃を始める。
デスワームは魔法を放って、さらに暴れて私達を潰そうとする。
攻撃範囲は広いけど対応出来る。
魔法は設置して追尾するタイプと体当たりが当たるように誘導するタイプ。
物理的な攻撃は移動そのものと一人を狙った体当たりだ。
その体当たりは何故かずっとネオに向かっている。まぁ、好都合だ。攻撃に集中出来るから。
刀を握り直して炎を纏った斬撃を何度もデスワームに浴びせて障壁を傷つける。
「…いいぞ!ダメージが蓄積している!…氷室の方は準備は終わっているな?」
「勿論ですよ。」
「流石だな。外すなよ?」
彼らはそんなやり取りをしてデスワームの障壁が壊れるのを待っていた。
そしてネオがタイミングを見計らってさっきと同じように腕にパイルバンカーを作り出して障壁を打ち砕いた。
「やれ!!」
「これで決めます!!」
今度は氷室自身が突撃してデスワームの体勢を崩してチャンスを作り出した。
「やれ!逃がすな!!」
ネオの一声に全員が反応して総攻撃を仕掛けるとデスワームは魔力を集めだして大爆発を巻き起こす。
この爆発は逃げきれない…!!
「やらせんぞ…!スカイウォール!」
「龍の寵愛!」
彼らが強固な壁を作り出してデスワームの最後のあがきから私達を守りきった所で演習が終わって現実の世界に引き戻された。
「麗華ちゃん!なにあれかっこよかった!!」
ゴーグルを外すと直ぐに楓が駆け寄ってきてキラキラとした目をこちらに向けてくる。
かっこいい…かっこいい…か…
私は思わず吹き出した。
「麗華ちゃんって…本当にガーディアンを目指してるの…?」
「そうだよ。陽菜。」
私は陽菜の問いにそう短く答え、その場から三人で少し離れて休憩する。
楓達と会話しながらさっきの事を振り返っていた。
とどめを刺す時に氷室が突撃していたけど、龍に見えていた。
龍…この世界では珍しい種族だ。魔物や人間という枠からははみ出した存在。
御伽噺の存在だと言われているけど…あの異質な感じ、どうも気になる。
でも、あの強敵相手に、私の攻撃は通用していた。戦機の力もあるけど、私は強いという事が実感できた。
「麗華ちゃーん?また考え事〜?」
「あぁ、ごめんごめん。」
私が笑って楓に言うと彼女は「せっかくなんだから楽しもうよ、ね?」と私の腕に腕を絡ませて次の場所へと歩き出した。
次に向かったのは本物のガーディアンの視点を楽しめる場所だった。
これは出撃から帰投するまでを10分にまとめたもので、大まかに何をしているのかを説明しているものだった。
「ガーディアンって凄いなぁ…麗華ちゃんもあんな感じになるのかな。」
陽菜がそう言い、私は「そうかもね。」と返答する。
三人で色々な物を見ていたりしたらもう昼を過ぎていた。
施設内のレストランで私達は昼食を摂ることにした。メニューはガーディアンが食べるものをモチーフにしたものであり、面白いものだった。
目の前に出された燻製肉やチーズが思いの外美味しく、思わずおかわりを頼んでしまいそうになる。
誠也ってこういうの作れるのかな。聞いてみよっかな。
食事を済ませて私達はガーディアン体験施設から出て喫茶店に次は向かう。
この喫茶店というのは誠也とこの前行った場所だ。
二人にあのパンケーキを食べさせたい。
扉を押して開けると鈴の音色が響き、ウェイターが私達を席へと案内する。
「ここのパンケーキ、凄く美味しいんだよ。」
「そうなの?」
陽菜は興味が出たのかそのパンケーキについて聞いてきた。
「フルーツが乗ってて美味しいんだよね。それに日替わりって話だし違う味が楽しめるんだよ。」
知ったような事を言っているが、これは誠也に教えてもらった話だから見たことは無い。
「それじゃせっかくだしそれにしようかな。楓ちゃんは何にするの?」
「私も麗華ちゃんが好きなやつにするよ〜」
そして三人でそのパンケーキを注文してそれが出てくるまで雑談していた。
すると楓が気になる事を話しだした。
「なんか、あの討伐体験の時の白い人、あの人から凄い魔力?みたいなのを感じたんだよね。」
「魔力…?確かにあの人は凄かったけど…」
楓の感想に陽菜はそう反応した。
「凄いにしてもあれはだいぶ凄いよ。麗華ちゃんは何か感じてた?」
「そうだね…確かに凄かった。あれは誠也とか…茅葺さんと似たようなものだったね。」
そんな事を話していると鈴の音が背後で聞こえて聞き覚えのある声が聞こえた。
「いらっしゃいませ!いつものですか?」
「うん、頼むよ。」
疲れているのかどことなく覇気がないように感じた。声の正体はそう。誠也である。
思わず私は黙ってしまう。二人が話していても私は簡単な返事だけをする。
しばらくしているとパンケーキが運ばれてきて二人は盛り上がり始める。
二人の会話に合わせているとスマホに通知が来た。
…誠也からだ。
―俺の事は気にするな―
って…いや、なんというか…
彼の心遣いに苦笑いしつつ私はいつも通りのテンションで二人との時間を楽しむ事にした。
私達が店を出る頃には誠也の姿は見当たらなかった。
店を出て解散したら誠也と帰りたかったけど…
家に帰ってくると和哉さんが出迎えてくれた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。…誠也は?」
帰ってきて早々私は誠也がどこにいるのかを聞くと彼は「自室ですが…誠也さんならしばらく起きませんよ。」と答えた。
「なんで出てこないの?」
「相当疲れていましたからね。彼。突然の出撃に、上への報告…帰ってきたのはあなたが帰ってくる30分前です。そこから起きているとなると…徹夜よりも酷いですから無理もないですよ。」
和哉さんにそう伝えられて私は小さく頷いて自室に戻り、今日遭遇した彼らの事を考えていた。
氷のような人は誠也や茅葺さんと同格…あの魔法が凄い人は土方さん達に匹敵するレベル…何者なのかな。
誠也に聞きたいけど、今度にしよう。戻る時にノックしたけど返事無かったし相当疲れてるんだ、きっと。
明日からまた学校だ。気を引き締めないとね。
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