追放令嬢(20)、お忍び遊郭で最強スパイに成り上がり、私を陥れたクズ貴族どもに地獄を見せます 〜前世はエリート諜報員なので、情報操作も潜入もお手の物です〜
第42話 傍観者の選択と、イレギュラーの宣戦布告
第42話 傍観者の選択と、イレギュラーの宣戦布告
「――その『世界の真実』、我々ギルドが、有効活用させてもらうぜ!」
下卑た笑い声と共に、ギルドの残党たちが私たちを取り囲んだ。その数は、十数名。一人一人が、血と裏切りの匂いを纏った手練れだ。盟約の間の、唯一の出口は完全に塞がれている。
「ご苦労だったな、令嬢スパイ。おかげで、面倒な罠を解除する手間が省けた」
リーダー格の男が、ぎらついた目で祭壇の水晶を見つめる。
「…くっ!」
ヴォルフガング中佐が盾を構え、カレルが短剣を抜き放つ。ミラベルは悲鳴を上げて私の背後に隠れた。数は圧倒的に不利。ここは、まさに袋のネズミ…!
私は、天井の最も深い影――そこにいるはずの、傍観者に向かって叫んだ。
「ノア! あなたは、この世界の理を守るのが役目なのでしょう!? なぜ、奴らを止めないの!」
声だけが、静まり返った盟約の間に響き渡る。やがて、まるで空間の染みから滲み出るように、ノアの姿が再び現れた。彼は、感情のない灰色の瞳で、眼下の私たちを見下ろしている。
「彼らもまた、この世界の理の中で動く駒の一つだ。世界の真実を知る資格があるか、今、試されているに過ぎない」
その声は、嵐の前の海の凪のように、不気味なほど平坦だった。
「資格ですって!?」私は思わず声を荒げた。「人の命を弄び、私利私欲のために世界を混乱させることが、真実を知る資格だと言うの!?」
「では、君にはあると?」
ノアの声が、私の心に直接突き刺さる。
「君もまた、この世界の理を乱す、本来いるはずのないイレギュラー(不規則な存在)だ。君が持ち込んだ知識、君の行動一つ一つが、この世界の確定していた未来を、どれだけ歪めてきたか…自覚しているのか?」
その言葉に、私は息を呑んだ。しかし、ここで怯むわけにはいかない!
「だから何だと言うの! 人は駒じゃない! 私たちは、与えられた運命にただ従うだけの、プログラムじゃないわ!」
「――問答はそこまでにしてもらおうか!」
ギルドのリーダーが痺れを切らし、号令をかけた。「小娘も、そいつらも、皆殺しだ! 水晶は我々がいただく!」
ギルドの男たちが、一斉に襲いかかってきた!
「リアナ嬢の後ろへ!」
ヴォルフガング中佐の怒号が響く。彼の振るう長剣が、鋼鉄の壁となって敵の刃を防ぐ!
「ちっ、面倒くせぇ!」
カレルが、ヴォルフガングの守りをすり抜けてくる敵を、流れるような動きで迎え撃つ! 彼の短剣が、闇の中で銀色の軌跡を描いた。
しかし、多勢に無勢。じりじりと、私たちは追い詰められていく。
「花季様!」「リアナ嬢!」
ミラベルの悲鳴と、カレルの焦った声が交錯する!
絶体絶命のピンチ。その時だった。
「――そうだ!」
ミラベルが、何かに気づいたように叫んだ!
「この水晶、ものすごい魔力を蓄えています! この力を、この遺跡自体の防衛システムに逆流させることができれば…!」
「できるの、ミラベル!?」
「や、やってみないと分かりません! でも、やるしかありません! うりゃー!」
ミラベルは、恐怖を振り払うかのように、祭壇の巨大な水晶に駆け寄り、その表面に複雑な錬金術の術式を指で描き始めた! 彼女の指先から、淡い光が溢れ出す!
ギルドのリーダーが、その行動に気づき、私を振り切ってミラベルへと襲いかかろうとした!
「小賢しい真似を!」
「させないわ!」
私がリーダーの前に立ちはだかった、その瞬間。
ノアが、動いた。
彼は指一本動かさず、ただ、ギルドの連中に向かって、静かに呟いただけだった。
「――エラーを、排除する」
次の瞬間、ギルドの男たちの足元から、影が、まるで生きているかのように無数の黒い“手”となって伸び、彼らの体を捕らえた!
「な、なんだこれは!?」
「離せ! 影が、体に…! ぎゃあああぁぁぁ!」
影の手は、男たちを抗う間もなく闇の中へと引きずり込んでいく。悲鳴は、闇に吸い込まれて、すぐに聞こえなくなった。ギルドは、文字通り一瞬で、「排除」された。
あまりに非現実的な光景に、私たちは言葉を失う。
ノアは、何事もなかったかのように、私に向き直った。
「さて、邪魔者はいなくなった。さあ、どうする、イレギュラー? このまま王を犠牲にし、世界の安定を選ぶか? それとも、君の言う感情論で、無駄な足掻きを続けるか?」
その時だった。
ミラベルの持っていた通信機が、けたたましい警告音を発した! 隠れ家にいるリナからの、緊急通信だ!
『大変です、ミラベルさん、リアナ様! 国王陛下のご容態が、急に…! 王都中で、魔力が乱れて、空が…空が、歪んでいます!』
タイムリミットは、もう目前まで迫っていた。
私は、ノアを真っ直ぐに見据えて、宣言した。
「決まっているわ」
「王様も、この国で生きる人々も、そして私も、あなたの言うシステムの駒なんかじゃない!」
「犠牲の上に成り立つ、偽りの安定なんて、私がこの手で、根底から覆してみせる!」
私は、ミラベルが水晶の解析で突き止めた、盟約の間のさらに奥へと続く、隠し通路を指差した。この先に、世界の「中央システム」があるはずだ。
「行きましょう、みんな。私たちの、最後の戦いへ!」
私の言葉に、カレルとヴォルフガングは力強く頷いた。ミラベルも、涙を拭って立ち上がる。
ノアは、そんな私たちの姿を、初めて、ほんの少しだけ、興味深そうな瞳で見つめていた。
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