第1話

初級ダンジョンの遺品拾い


 薄暗い洞窟には、間隔の短い足音だけが響いている。

 灯りもつけずその小さな影は、すでに道を記憶しているのか、それとも目が闇に慣れているのか。入り組んだ道を迷いなく進んでいく。

 曲がり角を三つ、表れた階段を一つ降りる。生物の息遣いに気を配り、ようやくたどり着いたそこは、昨日まで封鎖されていた区域――現在行方不明となっている、新人冒険者の位置情報が、最後に確認された場所だ。

 そこでようやく、小さな人影は手元のランタンを二三度叩く。衝撃で中に潜んでいた魔法生物が目を覚まし、数メートル先までを照らせる明かりになった。黒く塗りつぶされたような闇の中、注意深く目を凝らす。すると、無作為に広がる石畳の片隅、かすかに光るものがあった。

 小さな影はそれに駆け寄るとしゃがみこみ、埋め込まれた石の隙間、湿った土の中からそれを丁寧に掘り出す。所々が錆びて、くすんだ銀のペンダント。半分に割れたガラス玉が、大きな瞳に反射する。


「……これだ」


 そう呟くと、影はそれを布にくるみ、腰に下げていた鞄へしまった。どれだけ周囲へ気を配っても、その付近にヒトの生きていた痕跡──遺体はない。

 だが、このペンダントはたしかに、ここに彼がいたということを示す証だ。

 小さな影は、黙って立ち上がると、元来た道を引き返し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る