第32話 私と心先生と炭酸水

「炭酸激強い!」

「またそれ飲んでるんですか?」

 ナースステーション奥の更衣室内。

 昼休憩でランチを共にする私たち。

 心先生はおにぎりを食べた後、とあるメーカーの炭酸水を飲んでいる。

 先生は炭酸は好きだけど、強いのは苦手らしい。

 微炭酸くらいがちょうどいいといつも言っている。

 まあ、たまに微炭酸って書いてあっても微じゃなくない? ってやつもあるけどそれはそれとして。

 苦手なのに、ここ数日、先生は強めと巷で噂の炭酸水を摂取しているのだ。

「なんか最近疲れ取れないせいか、仕事中に集中切れちゃうときあるんだよね。だから、この炭酸の刺激でしゃっきりしないかなって思って」

「ビッグカツではダメなんですか?」

 ビッグカツなら先生の場合、リラックス効果がある。

 疲れが取れないなら、しゃっきりよりもリラックスの方がいいような。

「ビッグカツをお酒意識して食べ過ぎたせいで、もはやノンアルビールの域に入ってきていてマズいんだよね……」

「うーん、それはたしかに……」

 職場によるかもだけれど、うちでは推奨されていない。

 もちろん、飲むこと自体に問題はないかもだけれど、こういった緊張感のある職場においてノンアルにしろ、周囲に対してお酒を連想させる行為や物はあまり歓迎されないのだ。

 ただ、先生の場合はビッグカツ。

 酒に繋がるどころか、なんなら子ども向けの駄菓子。

 周囲への影響はない。

 でも、先生個人がそう思うのなら駄目なのだ。

 仕事に対しての意識が高い心先生だからこそ、律する心が重要だとわかっている。

 さすが心先生。

 私も見習わねば。

 仕事関連のことだけは。

「でも、やっぱりこの炭酸は……激強い!!!」

 先生はあまりの刺激に、一口飲んでは跳ね一口飲んでは跳ねを繰り返す。

 そして、全てのみ終わる頃には、疲れた顔へと切り替わっていた。

「いや、炭酸飲んで体力削ってますね」

「そ、そんなことは……あるかなぁ。でも代わりになるもの思いつかないぃ……」

 がっくりと項垂れる先生。

 さらに増した疲労感で押しつぶされてしまいそうだ。

「そもそもですが、何でそんなに疲れてるんですか?」

 心先生は小さい体から想像できないほど巨大なエンジンを積んでいる。

 ちょっとやそっとのことでは疲れないパワフルボディなのはず。

 なのにこの疲れ様はおかしい。

「最近、あまりにも自分の人生、お酒と仕事しかないなって急に辛くなったから、せめてもの息抜きにと思って、switchとマリオカート買って始めたら楽しくなっちゃって……。一緒にやる人はいないから、ひたすらにタイムアタックばっかりやってるんだけど、ランキング上がっていくのが楽しくてやめるタイミングを見つけられなくてズルズルと……」

 先生はえへへと笑いながら後頭部を掻く。

「でも、家でも勉強はしたいじゃん? だから、必然的に削るのって寝る時間になっちゃって」 

「いや、誘ってくださいよ。タイムアタックって、延々に追い越し追い越されのエンドレスゲームじゃないですか。さすがにそれをずっとはメンタル的にも良くないですし。二人なら相手が離脱したら終われますし、満足感もきっと違いますよ」

「そう、かな?」

「そうですよ。今日仕事終わりに先生の家に行くので、一緒に適度に楽しみましょう」

「やった! 千夏とやるの楽しみ!」

 というわけで、先生の家でマリカと相成った。

「千夏! 邪魔しないで!」

「このライン取りは私の専売特許ですよ!」

 結果、負けず嫌いな先生と、先生に負けるのがなんだか嫌な私の意地の張り合いが続き、二人で徹夜でマリカした。

 楽しかったです。

 でもしばらくはやりません。

 徹夜は駄目だ。

 なんでか先生は徹夜したのに、元気になっていたけれど。

 いやほんと、パワフルすぎる。

 

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